ihatov88の小咄集
15一通のメール 5/7
「ごめんな、今日は行けそうにない」
早朝、部員全員に送られた真仁からのグループメール。
佳奈は胸騒ぎがして慌てて真仁の家に駆けつけた。昨日、柔道部の大将である真仁は練習でコテンパンにいなされ、今までになくへこんでいた。マネージャーの佳奈は昨日別れた時の表情が脳裏にビッタリこびりついて心配で仕方がなかった。
自転車を思いっきり漕ぐこと10分、真仁の家の前には救急車が止まっていて、黒山の人だかり。佳奈はそこをかき分け近付こうとするとサイレンを鳴らして救急車は走り去った。
「おいおい、聞いたか」
「お気の毒にねえ」
「ああ、くわばらくわばら」
野次馬の耳を傾けると佳奈は脳天を直撃するような言葉を耳にした。
「ここのご長男、首吊ったらしいぞ」
昨日見た真仁の物憂げな顔がフラッシュバックした。それほど思い詰めていたのか、やるせない気持ちが形になって頬を伝う。佳奈は学校に登校し、授業前の部室で一同にその事を報告した。
「マジかよ!」
「あいつが首を吊るなんて……」
「昨日、少しは笑っていたのに」
部室の空気が重苦しい、それもそのはず。部員の一人が首を吊ったというのだから――。救急車で運ばれ、せめて無事であってほしいとここにいない一人のために全員が祈った。
そんな沈黙を打ち破るように、部室の扉が開く音がした。部員が一斉に振り返ると、そこに立っているのは首を吊ったはずの真仁、その人ではないか!
「おう、ごめんな、心配かけて」
昨日よりは元気な真仁。というよりいつもの調子だ。
「それより、どうしたのよ!」
全員が心配して彼に矢継ぎ早に質問をする。
「ごめんな、あそこまでしかメール打てなかったんだ」
真仁は白い歯を見せた。
「確かに、痙(つ)ったよ。首」真仁は首筋を押さえて笑い出した。
「マジびびったよ。借金ないのに首回らへんねん……。鍛え方が足らなかったかな」
「誰か、コイツに紐を用意して!」
佳奈は泣き笑いしながら大声で叫んだ。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔