ihatov88の小咄集
23共済組合 5/29
職場の休憩室。同僚とコーヒーをすすりながらテレビを見ている。中途半端な時間帯、流れる番組はアンパンマン。正しくは『それ行け、アンパンマン』
ええ年した中年のオッサン二人が並んで見るその風景も可笑しいのだが、テレビに映る出演者はそんなことなどつゆも気にせず子供たちに夢と希望を提供している。
ばいきんまんとドキンちゃんが何やらやり取りをしている。今日のゲストのなんとかマンの作った料理が食べたくて、ばいきんまんを使って奪い取ってやろうといういつもの作戦。相変わらずだがドキンちゃん、わがまま。ばいきんまん、言いなり、というか振り回されっぱなし。ばいきんまん見てたら悲しくなってきた。本当に悪いのは彼ではなく……!、いやいや、それを言っちゃお仕舞いか。
「センパイ、いいッスか?」
並んで見ているオッサン(後輩)が同じく並んで見ているセンパイに声をかけた。もちろんこっちもオッサン。
「『いつもと変わらない味でやっております』みたいな話やのう」
と答えた私。確かに子ども向けの話なのでストーリー展開はいつも同じだ。刷り込みをしてこそ子どもたちの記憶に残る。そしてお互い家に帰れば子どもと一緒に見ている、ほぼ強制的に。
この時私は思った。この名悪役二人のやり取りを、どこかで見たような……?それもけっこう前から。
「この二人見てたらね……」
「あぁ、はいはい……」
そうだそうだ。確かに後輩の家はなかなかチャキチャキのヨメがいる。ちょうど画面に映っているオレンジ色した小悪魔のような。このやり取りは後輩の家庭で見た記憶がある。だけど自分から言う分にはいいけどこっちからは言いにくい。
「言いたかったのは自虐ネタやね?どーせ自分の家と……」
「ちゃいますよ」
「違うだと?」
ムム、オイラの見当違いか?私だって読み違えることもある。
「先輩の家みたいッスよね、二人のやり取り」
「俺たち『恐妻組合』やからのう!」
「お互いにね」
二人で顔を見合わせて大笑い。俺たち同志、恐妻……じゃなかった共済組合員だ。
アンパンマン、正しくは『それ行け、アンパンマン』。ニッポンのお父さんたちにもウケるわけだ。家でも外でもコテンパンのばいきんまん……、同情するで。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔