ihatov88の小咄集
45反省 9/26
「被告人、前へ」
両脇に抱えられ証言台に立つ盗っ人兄弟の弟、ハチ(第9話参照)。先日アニキと一緒に泥棒に入ったところ盗んだ車で逃げたのだが、途中警察に止められてキーボックスにドライバーがささっているところを見つけられ御用となった。さらに、アニキは途中で逃げ出してしまい捕まったのは自分だけだ。ハチにはそれがどうも納得がいかない。
ハチはふてぶてしい態度で証言台に立った。
取調べの刑事や弁護士にも「ここは反省すべし、でないと刑が重くなるぞ」と言われ続け、少しは改心した。
「裁判官に反省していることを分かってもらえれば実刑を免れるかもしれない」
ハチの少ない思考回路でもそれだけは分かっていた。今日はそれさえ言えば刑務所に入れられることなく解放してくれるかもしれない、解放されればアニキのもとに言って一言言ってやろう、そう念じて証言台で裁判官の判決を待つことにした。
「被告人、貴方は泥棒に入って車を盗んだことに間違いありませんか」
「はい、ありません」
「どうやって盗んだのですか」
「一緒にいたアニキに聞くと『キーが差さってるならキーを抜いてドライバーをぶちこめばいい』といわれてそうしました」
「分かりました。反省してますか」
裁判官のこの質問を待っていたハチは法廷内に響き渡る大声で叫んだ。
「はい!してます!めっちゃしてます!!」
「そうですか」
判決を言い渡そうと裁判官は木槌を手に取った。そして、
「最後に言い残すことはありますか」
という質問にハチは少し考えたあと、積年の思いがこみ上げたハチはこう答えたのだ。
「もう金輪際アニキの指示には従いません!」
そう叫んだあと、判決が言い渡された。
「被告人、懲役刑に処する」
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔