即興小説まとめ⑶
僕が愛した…
(title 僕が愛した光景)
いくつかの光景がとりわけ鮮明に僕の脳裏に焼き付いている。
そのすべての中で君は泣いていて、つまり僕は、君の泣き顔が好きだったのかもしれない。
部屋の隅で君が泣いている。
公園のベンチで君が泣いている。
教室の窓際で君が泣いている。
君の涙のために秒針が音を立て、
君の涙のために日が暮れて、
君の涙のためにカーテンが揺れる。
君はなぜ泣いているのだろう。
頬を伝う君の涙に、手が届かない。
僕が愛したのは泣いている君ではなくて、
泣いている君がいる光景だった。
気付いたところで、君はもう泣いてくれやしないのだけど。