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真朱@博士の角砂糖
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即興小説まとめ⑶

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天使は白とは限らない
(title 黒い天使)


自分を天使と言い張るそいつは黒い瞳に黒い髪、おまけに翼まで黒だった。
しかもどうみても性別は男。

どこが天使だ。

そう言ってやると、彼はこう言い返してきた。

天使ってのは、天からの使いでさ、
天ってのは、別にどこもかしこも晴天ってわけでもないだろ?
俺は、雷雲のあたりの真っ黒い天からの使いなんだよ。
……とか、どう?

どう?ってなんだよ、どう?って。

私は彼の顔面に向かって思い切り紫煙を吐く。
彼は平気な顔でヘラヘラ笑っている。

煙草を吸いにベランダへ出たら、こいつがいた。
カラスの死骸かと思った。
よく見ると漆黒の翼の付け根には肌色の肩甲骨があった。
背骨も腰も首も腕も膝もくるぶしもあった。
私が脇腹のあたりを足の親指でつつくと、彼はのんきに大きく伸びをして、そして目を覚ましたのだ。

あ〜、寝ちゃったよ。

ネチャッタヨ?人んちのベランダに半裸で?
部屋に入れるのは嫌だけどベランダから突き落とすわけにもいかない。
なぜなら私は彼の翼を信じていなかった。
そんなわけで彼をベランダに正座させ、今に至る。

で、誰なの。

だから天使だってば。

もう何度目かもわからない問答だった。
私はため息をつき、灰皿に煙草を押し付ける。

警察呼ぶよ?

俺の不法侵入より君の頭が疑われるのが先だね。

私は反射的に彼の頭をひっぱたく。
ちょうど弟くらいの年頃に見えたからかもしれない。
彼はいったぁ〜と言いながらやっぱりヘラヘラ笑っている。

迷惑はかけないよ。このベランダを止まり木にさせてほしいだけなんだ。

私は新しい煙草に火をつける。

雷雲って嫌われ者でさ、どこへ行ってもみんな逃げてっちゃうんだ。

私は長く紫煙を吐く。

でも俺知ってるんだ、君、雷好きでしょ?
俺雷の友達いっぱいいるんだ。
スゲー奴いっぱい知ってる。
音も光も振動も、一流の奴らさ。
好きなときに奴ら呼んであげられるよ。
どう?良くない?


…知らない。勝手にすれば?



かくして、彼は私の家のベランダに住まうことになったのだった。


半年もしないうちに、私の住む町は雷の町としてすっかり有名になってしまった。

彼ときたら私を喜ばせようと3日に一回は雷たちを連れてやってくるのだ。

おかげでうちのベランダはすっかり彼らのたまり場となった。

…なにが嫌われ者だ。

雷たちの中心で楽しそうに笑う黒い天使に心の内で毒づく。

嘘ばっかつきやがって。


じゃ、俺らそろそろ帰るね。


彼らはベランダから飛び立つように天へ帰る。

光り、轟き、雨をまき散らしながら、去っていく。

賑やかな奴ら。

私は彼らの背中をベランダから見送る。

…案外、それが好きだったりする。


黒いあいつには言ってやらないけど。