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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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1 アミサガン放棄





 部屋の中の大きな円卓にはアレクシスとエドを中心として、リシエールとグランボルカの重臣たちが並んで座っている。
 その重臣たちの表情が皆一様に暗いのは、突然出現したデミヒューマンの軍勢のせいだ。
 現在、ジュロメ要塞との連絡もつかないような状況にあり、ジュロメが落ちたのか、それとも持ちこたえてこちらの援軍を待っているのかも解らない状態にある。
「・・・やはり、ここは私がジュロメまで行って様子を見てきたほうがよいのではないでしょうか。」
 クロエが沈黙を破って口を開くが、アレクシスは首を横に振った。
「ダメだ。君の魔法についていける人間がいない以上、一人で敵のまっただ中に行かせることはできない。」
「しかし私の魔法なら・・・。」
「全く休まずにジュロメまで行って戻ってこられる?・・・無理だよね?だからアレクは行かせられないって言っているの。私ももちろん同じ考え。」
 エドがクロエにそう釘を刺して続ける。
「今、ジュロメの守備についているヘクトールは皆さんも知っての通り、私を守り育ててくれた師であり、私の切り札です。彼ならば、たとえデミヒューマンの大軍に攻められたとしても最悪兵士と街の人間を連れて落ち延びることくらいはできると私は信じています。」
 エドはヘクトールなら窮地を切り抜けることができる。そう信じて疑わない。疑わないが、それがそのまま結果につながるとも考えてはいない。だからと言って、装備の整っていない本隊が救援に行った所で、下手をすれば本隊にも大打撃を受けかねない状況である。せめてアンドラーシュがエンチャントされた武器防具を持って帰ってきてくれた後であれば、結果も行動も違ったかもしれないが、今現在、このアミサガンの街には十分な数の武具の備えはない。
「幸い、デミヒューマンのこちらへの進行は遅いと報告があります。ですので、私とアレクは一旦アミサガンを捨てることを提案します。」
 エドの言葉を聞いて、部屋の中にどよめきが起こる。
「エーデルガルド様。畏れながらその案は我らアミサガンの騎士としては到底受け入れがたい提案です。騎士が守るべき街を捨てて逃げるなど、恥の極みです。」
 リュリュと共に出席していたアンジェリカが立ち上がり、異論を唱える。
「アンジェの気持ちはわかるよ。でも今はそんなことを行っている時ではないと思う。」
「フィオリッロ卿。僕は守るべきは民の命だと思っている。だから悔しいだろうけど一旦この街から下がってイデア、マタイサのラインまで下がる。下がって持ちこたえれば叔父上が武具を持ち帰ってきてくれるはずだ。武具が届き次第、攻勢に転じてすぐにこの街も取り戻すつもりだからそれまで我慢して欲しい。」
 エドだけではなく、アレクシスもそう言ってアンジェリカをなだめる。アンジェリカもアレクシスの言葉に逆らうことはできず、しぶしぶながら頷く。
「・・・・・・承知、しました。」
 アンジェリカとしてもアレクシスの言った言葉の意味は理解している。しかしそれでもアミサガンの街を拠点とする騎士としては納得の行く裁定とは言いがたかった。
「・・・ですが、せめて撤退の時の殿軍は是非我々アミサガン騎士団に。」
「わかった。よろしく頼む。」
「はっ。」
 そう言って短く返事をすると、アンジェリカは席に座り直した。
「特に他の意見がなければ、アミサガンの街から撤退し、全隊と住民を2つに分けてイデア、マタイサまで下がることを大方針として策を練るがどうか。」
 そう言ってアレクシスが部屋の中を見回すが、異を唱えるものはいなかった。
 今回街を捨てることで一番辱めを受けるアンジェリカ達が譲歩したことで、不満を言い出しづらい雰囲気ができているというのもあるのだろうが、皆一様に押し黙っている。
「アミサガン騎士団以外の撤退の際の陣形や布陣は出発の直前に伝達する。出立の予定は3日後。それまでに皆、部隊の準備を整えるように。では、解散。」
 アレクシスの号令に一度返事をすると、重臣たちはどやどやと部屋を出て行った。出口に殺到した人間達がいなくなった後、部屋の中に残っているのは、数人の人間のみになった。
「ごめん。あたしがお父様達をこの街から外に出してしまったから、何もせずに撤退なんてことになってしまって。せめてオリガは残すべきだった。」
「ジゼルが悪いわけじゃないだろう。たとえ叔父上がいたにしても現在の装備で総力戦をするのは厳しいし、僕がセロトニアに誰を送るか検討したとしてもたまには叔父上にゆっくりしてほしいと思うから、同じ判断をしただろう。それにアリスの探索についても、僕の気が回らなかった所をフォローしてくれただけじゃないか。」
「でも・・・。」
「姉様。後悔などあとでいくらでも出来ます。今はできるだけ被害を少なくこの街から撤退することが先決ですのじゃ。」
「リュリュもごめんなさい。リュリュの街を捨てることになるなんて。」
「街などというものは、人が集まった結果ですじゃ。そこにすむ人間が無事であればまた同じような街を作ることは出来ます。」
「リュリュ・・・。」
「でも、この街って結構な人数がいるだろう。どう誘導するんだ?」
 部屋に残っていたレオがそう尋ねる。
「準備が出来たらスカウトに先行してもらって、住民とその護衛につける騎士団を一つ脱出をさせる。残りは後ろを警戒しながら進もう。幸いイデアとマタイサまでは街道が伸びているから、騎馬でも歩きでも進みやすいし、道の周りも開けているからデミヒューマンの別働隊が伏兵として隠れるのも難しいだろう。」
「そっか。じゃあ、うちとクロちゃんの隊は、偵察もかねてその役目かな。リスクを分散することを考えたら、ジゼルとエドの行き先は別にしたほうがいいよな?それについてもこっちで考えたほうがいいか?」
「ああ。その方向で頼む。」
「あいよ。クロちゃん、マタイサとイデア、どっちがどっちに向かうか決めるぞ。できれば二街道の間の探索もしたいから、その話も詰めよう。あとはメイのところの居残り組の配置な。」
「わかったわ。」
 レオとクロエはそう言って頷き合うとアレクシス達から少し離れた所で話をし始める。
「さすがだなあ。」
 二人の様子を見ていたエドがそうつぶやく。
「私なんか何もできないから、ああやって仕事できるのって憧れる。」
「レオ君はやればできる子だからね。やる気になってくれたレオ君になら安心して仕事を任せられるよ。」
 そう言ってソフィアが笑う。
「あれ?何か他人ごとだけど、ソフィアはレオ達と一緒に行くんじゃないの?」
「ううん。今回わたしの隊はエドの直衛につくよ。いいよね?アレクシス君、ジゼルちゃん。」
「ああ、ソフィアがついてくれるなら安心だ。・・・あとはジゼルの護衛か。」
「あたしには別に護衛なんてつけなくていいわよ。今の状態なら狙われるのはリュリュだろうし。リュリュの護衛を厚くしてあげて。」
「そういうわけにも行かないだろう。リュリュにはシャノンがついているし、僕も側にいるつもりだから大丈夫だ。その分君の護衛を厚くする。」