天才少女
二
間違いなく都会の一角であるはずだが、そこは静かな森だった。地図では線路や道路が絡まったコードのように描かれている間にぽっかりと大きく空いた真っ白な空間であり、先ほど取材相手の私有地に入ったという鉄柵を超えたが、タカクラは未だ車を走らせているため、ミヤタは漫画でよく見る金持ちのようなデカい家は実在するんだなとぼんやり思った。
ようやく森を抜け、豪邸にたどり着き車を駐車場に停車させる。先ほどまで森を抜けてきたが、豪邸の周りはよく手入れされた庭であり、それだけでも金がかかっているのがわかる。
ミヤタとタカクラがじりじりする気温を我慢しながら正門に向かうと使用人と思われる人物が出迎えてくれ、応接間へと通された。
ただ広いだけの部屋に通され、ミヤタは何も置くものがないのにこんな部屋を用意するなんて金がもったいない、と思ったが金持ちというのはこういうことでもしないと金を使いきることができないのだろう、ということにした。
ミヤタが横目でタカクラを見るとタカクラはハンカチでしきりに汗を拭き椅子に黙って座っている。
「どうもお待たせしました。」
そういって応接間のドアを訪ねてきたのは、身なりのいい中年の女性だ。宝石をこれでもかと体に巻きつけているその姿は、歩くマネキンといっても過言ではない。
タカクラとミヤタは相手の失礼のないよう、丁寧に自己紹介とお礼を述べ社交辞令を済ませる。
「この度は独占取材ということで、わざわざお時間頂きありがとうございます。」
「あら。いいんですよ。むしろ最近はこういった取材が無くなっていましたから。」
今回、ミヤタとタカクラが取材をする相手は、たった十六歳のアキという少女だ。だが、ただの少女ではない。八歳の時、突然『千年に一度の人材』とも言わしめる才能を開花させた少女である。
わずか八年で数十点の論文を発表し、多くの特許の取得と同時に数々の研究機関に自分の知恵を提供もしている。昨今の医療技術の発展を主に促進させてきたが、工学、数学など理学のみならず、文学、音楽、美術、など芸術作品も多く生み出した。
そんな天才少女も五年前まではテレビや雑誌で取りざたされていたが、最近ではほとんど名前を聞かなくなった。