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恋ってだいたいこんなもの

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 最後の曲は例のオリジナルだ。矛盾だらけの社会に対して悲痛な物語で訴えかける。血も滲めとばかりにアコースティックギターをかき鳴らす。最後に一つAコードを汗だくでストロークすると共に、僕はパイプ椅子に座り込んだ。激しいテンポの曲だった割に、歌詞の内容からか観客はしばらくの静寂に包まれ、その後何かを噛み締めるような拍手が起こった。

 サークルの外からの学生もそれなりに来て、ライブは成功の内に幕を閉じた。
 結局最後までステージ前で部員に混ざって盛り上がっていたエミリは、打ち上げに誘われた。費用も全員二百円上げればいいだけだからと半ば強引に押され、彼女は僕の方を見ておあずけをされている犬みたいな顔をした後に「じゃあ、御馳走になります」と言って笑った。
 飲み会で僕が飲むのはいつもチューハイを三杯まで。自分が酔うより人が酔った時の豹変ぶりを見るのが好きなのだ。
 エミリもそうらしい。キス魔と化して男子部員を次々と餌食にしてゆく男の先輩を見て愉快そうに笑っていた。
「いやー……これはもう、カオスね」と彼女。
「いい例えだ。当人は次の日が大変みたいだけど」
「そりゃそうでしょう」
「先輩来そうだから、ちょっと逃げるよ」
 僕は席を立ち、相方の向かいに陣取って今日の感想と反省点を話し合った。

 打ち上げ会場の居酒屋を出て、部員は各々解散した。僕とエミリも駅へ入る。
「ああ……マジかよ」僕は言った。
「どうしたの?」
「終電出ちゃってる」早めに抜けるんだった。まあ今更後悔しても遅い。「どこか、寝れるとこ探そう」
「そうね。で、明日帰って学校は休む」
「有意義だな」
 街を歩くと、ネットカフェを見つけた。その二軒奥にはネオンの輝くラブホテル。
「……どっちに入る?」一応訊いてみた。
「こっち」もちろん彼女はネットカフェを示した。
 財布に金があまり残っていなかったので、ペアシートを一室取って中に入る。
「それぐらい自分で払うのに」とエミリ。
「女と二人の時は自分が奢るって変なポリシーが邪魔をするんだ」
「厄介ね」彼女はクスリと笑った。
 個室に入ったものの、二人ともなかなか眠気が来ないので、パソコンで「エターナル・サンシャイン」を見た。主演はジム・キャリーとケイト・ウィンスレット。映画の内容はこの話に関係無いから割愛するが、とにかくロマンティックで素晴らしい映画だ。見れば分かる。
 それより重要なのはこれを見た後にエミリが言った言葉だ。
「恋がしたい」彼女はそう言った。
「いいんじゃない?」僕はその言葉に対してこう返した。
「今日は良かった」
「何が?」
「全部。特に君のライブ」
「今、韻踏んだね」
「無意識にね」
 最後の曲が凄かったと彼女は言ってくれた。「全身全霊って感じで」
「全身全霊だったんだよ」歌う時はいつもそうだ。
「惚れちゃったよ」エミリはパソコンの画面から僕の方へ眼を移した。お互い横になっていて、何だか変な気分だ。
「またまた」僕は照れなのか謙遜なのかよく分からない相槌を打った。
「本当に。君の人柄とか考えてる事とか、色々出てたから」
 その後しばらく間が空いた。
 本気にしていいのだろうか?
「あのさ……」僕は声を掛けた。返事は無く、代わりに静かな寝息が聞こえてきた。

 なんだよぉ。

 翌日、彼女は電車の中で僕に謝ってきた。「昨日はごめんね。途中で寝ちゃって」
「いやいや」午前三時に起きてろっていう方が難しい話だろう。
 いつもの朝とは逆方向の通勤ラッシュだ。彼女は腕を組んで壁にもたれ、僕の背中には乗客の体重がのしかかっている。
「ねえ」
「何?」額に少し汗をかいてきた。
「告白してもいい?」彼女はそう言った。
「あー……ごめん、またポリシーが邪魔する」
「どんな?」
「告白は男からってやつ」
 彼女はクスリと笑った。電車の中だし。
「あと」
「まだあるの?」
 僕は頷いた。「そういうのは、とりあえず駅に着いてから」
 彼女はまたクスリと笑い、腕組みを解くと僕の背中に手を回して、こっそりと抱擁した。