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『喧嘩百景』第11話成瀬薫VS不知火羅牙

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 羅牙は薫の台詞(せりふ)を拳で遮った。
 「問答無用だ。薫ちゃん」
 薫は目の前に突き出された羅牙の拳をそっと払った。
 問答無用。長年の付き合いでお互いのことはよく解っている。お互いの言いたいことがよく解っている以上、いくら話をしても無駄なことだ。
 ――それでも俺はダメなんだよ。
 「羅牙、美希、お前たちに俺を止められるか?」
 薫は言おうとしたことと、自分の口から出た言葉が違うことにはっとした。
「俺、今、何て…」
 ――俺はもう何もしないって…。
 羅牙は腕組みをしてにっと笑った。
 「薫ちゃんに何かさせようとするよりよっぽど簡単なことさ。言ったろ、あたしたち強いって」
「待てよ、羅牙。俺は…」
 慌てて訂正しようとする薫に、
「OッKーOッKー」
「薫ちゃん、楽隠居はさせないよーん」
羅牙と美希は口々に言ってくるりと身を翻した。
 笑顔で手を振る。
 「待てって。俺はもう降りたんだからな!」
 駆け出していく二人の背中に、薫は聞いてはもらえないだろう願いを投げつけた。今までそれでやってきたじゃないか。
 しかし、二人は飛ぶように軽やかな足取りで、薫の言葉を振り切って行ってしまった。
 この日から成瀬薫にとって決して楽ではない日々が始まることとなったのだった。