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バディ・ボーイ

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 ロイズ家の前に来たBBは、朝と同じようにマリッサの部屋の窓をノックした。
「おかえりなさい」窓を開けてそう言った後、彼女は玄関から出てきた。「……そこには何を乗せてるの?」
 荷車の布をどけて、BBはタンクの中身について説明した。一軒ずつ水を配って廻るのはさすがに骨が折れるので、水汲み場へタンクを運ぶのだ。そこにある蛇口付きの大きな樽へ、中身を全て移し替える。
「あの水をあなたが用意してたなんて」二人で荷車を引きながら、マリッサは言った。「よく考えれば、これだけの量を手に入れられる人は他にいないわよね。どうして黙っていたの?」
「ウィリーの教えだよ」とBB。「功績を自分からひけらかすほど、格好の悪い事は無いってね」
「今日、あなたは自分の行いを私に話したけど、格好悪いなんて思わなかったわ」
「そりゃあ、君が知る事を求めたからさ。人から求められて初めて明かす事は、自慢にはならない」
「それもウィリー?」
「これは今思った事」
 全ての水を移し終えると、二人は売れ残りのトマトを齧った。
「帰ったらすぐ、ママに話すわ」マリッサは言った。「あなたがこれだけ人の役に立っていれば、私達の事も認める他無いわよ」
「だといいな」
「きっと大丈夫よ」
 彼らは互いのトマトを相手に差し出し、祈りを込めて齧り合った。

「知ってるわよ」
 その日見聞きした事を誇らしげに話すマリッサに、シンディはあっけらかんとした様子で言った。
「知ってる?」彼女は元々大きな目を更に見開き、それから眉間に皺を寄せた。「それなら、反対する理由はどこにあるの?」
「BBはとても素晴らしい子だと思ってるわ」とシンディ。どうやら、彼女達の考えには若干の食い違いがあったらしい。「勿論あなたも素晴らしい子よ、マリッサ。でも二人が合わさると、問題が起こるの」
「どういう事?」
 シンディは、彼女の疑問に対する答えを提示した。
「BBはこれからも、色々な苦労を抱える事になるわ。どれほど私達と仲が良くなろうとも、この町にいる限り、彼は独りぼっちなの」
 肌の色は変えようが無い。BBはこの先も、町の中に溶け込む事は出来ないのである。
「ブルースが歌えても、町の皆の為に綺麗な水を持ってきてくれても、それは同じ。いつかは、ここを出て行く日が来るわ」
 マリッサは首を振った。恋を覚えたばかりの少女にとって、最初から離れる運命にあると諭されるのは、辛い仕打ちだった。
「彼を愛しているなら、一緒に行けばいい。あなたの人生なんだから、それは自分で決めればいいと思うの」シンディはそう言いながら、娘が今まさに町を出て行こうとしているかのような気持ちとなり、一瞬言葉をつぐんだ。「……でもね、マリッサ。そうやって、いつか夫婦となる覚悟で愛し合っていたとしても、あなた達の結婚をアメリカは認めてくれない。今はそういう時代なのよ」
 彼女は、マリッサの頬を伝う涙を拭った。「BBの生活を見て、そんな現実を知った上で、あなた達の関係を真剣に考えて欲しかったの。分かる?」
 マリッサは唇を真一文字に結び、深く頷いた。
「……それでも、彼の事を愛し抜く自信はある?」
 互いを見つめ合い、シンディはじっと返事を待った。そして、彼女が言わんとするところを悟ったマリッサは、再び大きく頷いた。
「ありがとう、ママ」
 それから二人は、約束のハグを交わした。
作品名:バディ・ボーイ 作家名:TAKE