記憶宝石
私はバケモノだ、人の悲しみを集めたい
人の頭を軽く撫でるだけでその人の要らない記憶をもらい宝石を渡す、私はそういう存在だった
そういう時、人は決まって悲しい記憶を渡すのだが、人の悲しみを形にした宝石はとても冷たく澄んだ輝きをしていて、悲しみとはなんと美しいものだろうかと考えていた
ある日、「宝石はいらない、悲しみさえ消してくれればいい」と言うひとが居たので、せっかくならばと私はその記憶を宝石へ変えずその記憶を自分の身体へ食事のようにいれてみた
そして、その人の記憶を体験し、その絶望に驚いた、こんなものがなぜあの美しい宝石に変わるのか、今の私には理解できず、是非集めて調べてみようと思ったのだ
それからといもの、私は迷い込む人に記憶をねだり、幾つもの悲しみを背追いこんだ
私には幸運だったが時代が進むにつれ、記憶を無償でくれる人は増え、今では背負った悲しみは数知れない
それでもこの美しさはどこから来るのかがわからなかった、ただ研究のため、様々の記憶を宝石にしたところ、別れの記憶は美しく、罪の記憶は黒く煤けた石ころのようであった
長く活動していると面倒なこともある、最近では声を掛けただけで逃げた人が噂したのか、冷やかしにくる人も来る、そういう人にはここに来た記憶を変え、ズボンのポケットにでも石を突っ込んでやるのだが一度流れた噂は中々消えないようだった
だから…目の前のこの少女もどうせ冷やかしだとしか思えなかった
見たところ普通の女の子だと思った
これまで私のところへ記憶を食べさせるのはイカレた自暴自棄の狂人と一度も目を合わせようとしないような後ろ暗い過去を感じさせる人間ばかりだったから
まぁ…一応声をかけておこう、無駄に終わる気しかしないが…
【君の美しい悲しみを僕に食べさせてくれ、悲しみが何故あれ程輝くのか…理由を知りたい、世界で一番美しい宝石を作りたい】
「食べさせることは出来ない、話し相手になりにきたの
悲しみの美しさの秘密を教えてあげる、そうすれば少しは美しい宝石に近づけるんじゃないかな?」
少女は迷いなくバケモノに答えた
私はひどく驚いた、わざわざ話さなくても私は撫でるだけでわかる、手間でしか無いのに少女は話したいと言う、そこまで言うのだ、悲しみの輝きの秘密をこの子なら知っていてもおかしくない、是非話を聞いて見たいとさえ思い、私は彼女に食べさせる事ではなく、話す事をねだった
「話せることあまりないかね、とりあえず昔の事から話していこうか、それなら私も話やすいからね
一番昔で悲しい記憶と言えばそうだな…昔の私はわがままでね、自分のために周りは動いてくれるって信じてたのかな、それで失敗しちゃった話をしようかな」
「私の住んでる場所は人が少なくてね、周りは知り合いしか居なかったんだ
だから仲良かった人とは当然ずっと一緒で、いつも一緒に居たんだ、だから…居なくなってしまうなんて聞いた時の悲しさは本当に…許容できなかったんだ…」
「それでね、癇癪を起こしちゃって、お別れ会の日でも絶対行かない!私が行かなかったら絶対あの子は置いて行ったりしない!って部屋から出ようともしなかったの
親も行きなさい、その子さえも来て欲しい、と言ってたのに私は部屋に鍵をかけて駄々をこねてたの、そしてお別れ会の終わった夕方になって、その子の家に行って…誰も居ないのがわかって…それで…自分が何をしたのか…ようやくわかったんだ…」
【その後悔による成長こそが悲しみの美しさなのかい?】
「さぁ?まだ私の話は終わってないよ」
【不粋な事をしてしまったね、続けてくれ】
「すこしは君も後悔してほしいな…じゃあ続きはまた明日にするよ、もうこんな時間だもの、このままじゃ次の日になっちゃう」
人と関わり、記憶を貰わずに帰す事に不安がないわけではなかったが、記憶を奪うのは好きではないのでしなかった
何より…人とこんなに長いこと話をするのは始めてだったからとても嬉しかったのだ、きっとこの記憶を宝石にしたら眩い煌めきを持つだろうとわたしは確信している
彼女はまた次の日、私の元を訪ねてきた
【そういえば…君が初めてだよ、会おうとして僕の元へ来たのは】
「そうだと思ったよ、友達いないでしょ、あなた名前も名乗らずに帰らせてしまうんだもの、次いつ会うか約束もしてないのに」
私の住処は今は路地裏となっている、偶然でなければ来れないし、記憶を軽く奪えば二度と同じ人が迷い込むことはなかった
なので一度きりの対話しかしたことの私は彼女の顔を再び見たときに初めて人と本当の意味で出会ったのだと思う
【そうだよ、訪ねて来たのはきみが初めてだ】
「ここからでられないの?いつからここに居るの?」
【ずっとずっと昔、この街がコンクリートで塗り固められるよりずっと昔、ここから出ることは出来るよ、この記憶を貰う力を捨てればどこにでもいける、バケモノだったことさえ忘れて人として生きていける】
けれど、私はここから出る気は無い
悲しみを集めてきた私にとって外の世界は怖すぎる、バケモノとして他人の記憶越しに触れただけで切りつけられるように痛むのに、人間となってその悲しみと直面してしまったら、それに対抗する手段がわからないのだ
「何でここにずっと居るの?
一緒に帰ろうよ、うちに来ていいよ?」
【今日は質問が多いね、僕は君の話が聞きたいな】
「趣味が悪いね、そもそも私はあなたに悲しい話をしに探しにきたんじゃないよ」
【そうだったね、僕の所には悲しみを捨てに来る人しか居なかったから】
「私は違うよ、私は…私が来たのは…」
「…同情なんかじゃないのよ、悲しみを集めてる人なんてその人は何を考えてると思ってるのかと見に来たら、本当に友達が居たことすらないんだもの、いい人そうなのに、このままほっとくなんて勿体無さすぎるのよ」
【僕の事を人と呼ぶのかい?姿形は人に変えれるけどそれだけで人と呼んでいいのかい?】
「充分よ、悲しい記憶を集めてるなら、君よりバケモノみたいな人はずっと昔からいるのは君も知ってるでしょ」
くだらないとも思った、だが私もむかしから人間には少しだけ、少しだけその強さに憧れていた
だから、私も人間の真似がしてみたくなったんだ
真っ暗な路地裏に自分の輪郭を描いていく、自分が見てきて憧れた人、なりたかった姿をイメージして形を掘り出していき、これまでの記憶、自分の中にある大切にしていたものを流し込んでいく
ガラスで作ったリンゴのような目に見えた違和感はあるものの、僕は他人とのコミュニケーションをとるための存在に進化…いや、誕生をしたのだ
【こんな風でいいのかな?すこし憧れが強すぎて美化されてしまった気もするけども】
「ちょうどいいわ、多分外に出るならその方が生きやすいわよ」
外に出る気はないんだが…彼女が気に入るならそれで充分だと私もこの姿を気に入った
【外に出る…か…人の形になってみたら何だか無性に勇気が湧いてきた気がする、なんでだろうね】
「その答えを教えるために私はあなたに会いに来たのよ」
人の頭を軽く撫でるだけでその人の要らない記憶をもらい宝石を渡す、私はそういう存在だった
そういう時、人は決まって悲しい記憶を渡すのだが、人の悲しみを形にした宝石はとても冷たく澄んだ輝きをしていて、悲しみとはなんと美しいものだろうかと考えていた
ある日、「宝石はいらない、悲しみさえ消してくれればいい」と言うひとが居たので、せっかくならばと私はその記憶を宝石へ変えずその記憶を自分の身体へ食事のようにいれてみた
そして、その人の記憶を体験し、その絶望に驚いた、こんなものがなぜあの美しい宝石に変わるのか、今の私には理解できず、是非集めて調べてみようと思ったのだ
それからといもの、私は迷い込む人に記憶をねだり、幾つもの悲しみを背追いこんだ
私には幸運だったが時代が進むにつれ、記憶を無償でくれる人は増え、今では背負った悲しみは数知れない
それでもこの美しさはどこから来るのかがわからなかった、ただ研究のため、様々の記憶を宝石にしたところ、別れの記憶は美しく、罪の記憶は黒く煤けた石ころのようであった
長く活動していると面倒なこともある、最近では声を掛けただけで逃げた人が噂したのか、冷やかしにくる人も来る、そういう人にはここに来た記憶を変え、ズボンのポケットにでも石を突っ込んでやるのだが一度流れた噂は中々消えないようだった
だから…目の前のこの少女もどうせ冷やかしだとしか思えなかった
見たところ普通の女の子だと思った
これまで私のところへ記憶を食べさせるのはイカレた自暴自棄の狂人と一度も目を合わせようとしないような後ろ暗い過去を感じさせる人間ばかりだったから
まぁ…一応声をかけておこう、無駄に終わる気しかしないが…
【君の美しい悲しみを僕に食べさせてくれ、悲しみが何故あれ程輝くのか…理由を知りたい、世界で一番美しい宝石を作りたい】
「食べさせることは出来ない、話し相手になりにきたの
悲しみの美しさの秘密を教えてあげる、そうすれば少しは美しい宝石に近づけるんじゃないかな?」
少女は迷いなくバケモノに答えた
私はひどく驚いた、わざわざ話さなくても私は撫でるだけでわかる、手間でしか無いのに少女は話したいと言う、そこまで言うのだ、悲しみの輝きの秘密をこの子なら知っていてもおかしくない、是非話を聞いて見たいとさえ思い、私は彼女に食べさせる事ではなく、話す事をねだった
「話せることあまりないかね、とりあえず昔の事から話していこうか、それなら私も話やすいからね
一番昔で悲しい記憶と言えばそうだな…昔の私はわがままでね、自分のために周りは動いてくれるって信じてたのかな、それで失敗しちゃった話をしようかな」
「私の住んでる場所は人が少なくてね、周りは知り合いしか居なかったんだ
だから仲良かった人とは当然ずっと一緒で、いつも一緒に居たんだ、だから…居なくなってしまうなんて聞いた時の悲しさは本当に…許容できなかったんだ…」
「それでね、癇癪を起こしちゃって、お別れ会の日でも絶対行かない!私が行かなかったら絶対あの子は置いて行ったりしない!って部屋から出ようともしなかったの
親も行きなさい、その子さえも来て欲しい、と言ってたのに私は部屋に鍵をかけて駄々をこねてたの、そしてお別れ会の終わった夕方になって、その子の家に行って…誰も居ないのがわかって…それで…自分が何をしたのか…ようやくわかったんだ…」
【その後悔による成長こそが悲しみの美しさなのかい?】
「さぁ?まだ私の話は終わってないよ」
【不粋な事をしてしまったね、続けてくれ】
「すこしは君も後悔してほしいな…じゃあ続きはまた明日にするよ、もうこんな時間だもの、このままじゃ次の日になっちゃう」
人と関わり、記憶を貰わずに帰す事に不安がないわけではなかったが、記憶を奪うのは好きではないのでしなかった
何より…人とこんなに長いこと話をするのは始めてだったからとても嬉しかったのだ、きっとこの記憶を宝石にしたら眩い煌めきを持つだろうとわたしは確信している
彼女はまた次の日、私の元を訪ねてきた
【そういえば…君が初めてだよ、会おうとして僕の元へ来たのは】
「そうだと思ったよ、友達いないでしょ、あなた名前も名乗らずに帰らせてしまうんだもの、次いつ会うか約束もしてないのに」
私の住処は今は路地裏となっている、偶然でなければ来れないし、記憶を軽く奪えば二度と同じ人が迷い込むことはなかった
なので一度きりの対話しかしたことの私は彼女の顔を再び見たときに初めて人と本当の意味で出会ったのだと思う
【そうだよ、訪ねて来たのはきみが初めてだ】
「ここからでられないの?いつからここに居るの?」
【ずっとずっと昔、この街がコンクリートで塗り固められるよりずっと昔、ここから出ることは出来るよ、この記憶を貰う力を捨てればどこにでもいける、バケモノだったことさえ忘れて人として生きていける】
けれど、私はここから出る気は無い
悲しみを集めてきた私にとって外の世界は怖すぎる、バケモノとして他人の記憶越しに触れただけで切りつけられるように痛むのに、人間となってその悲しみと直面してしまったら、それに対抗する手段がわからないのだ
「何でここにずっと居るの?
一緒に帰ろうよ、うちに来ていいよ?」
【今日は質問が多いね、僕は君の話が聞きたいな】
「趣味が悪いね、そもそも私はあなたに悲しい話をしに探しにきたんじゃないよ」
【そうだったね、僕の所には悲しみを捨てに来る人しか居なかったから】
「私は違うよ、私は…私が来たのは…」
「…同情なんかじゃないのよ、悲しみを集めてる人なんてその人は何を考えてると思ってるのかと見に来たら、本当に友達が居たことすらないんだもの、いい人そうなのに、このままほっとくなんて勿体無さすぎるのよ」
【僕の事を人と呼ぶのかい?姿形は人に変えれるけどそれだけで人と呼んでいいのかい?】
「充分よ、悲しい記憶を集めてるなら、君よりバケモノみたいな人はずっと昔からいるのは君も知ってるでしょ」
くだらないとも思った、だが私もむかしから人間には少しだけ、少しだけその強さに憧れていた
だから、私も人間の真似がしてみたくなったんだ
真っ暗な路地裏に自分の輪郭を描いていく、自分が見てきて憧れた人、なりたかった姿をイメージして形を掘り出していき、これまでの記憶、自分の中にある大切にしていたものを流し込んでいく
ガラスで作ったリンゴのような目に見えた違和感はあるものの、僕は他人とのコミュニケーションをとるための存在に進化…いや、誕生をしたのだ
【こんな風でいいのかな?すこし憧れが強すぎて美化されてしまった気もするけども】
「ちょうどいいわ、多分外に出るならその方が生きやすいわよ」
外に出る気はないんだが…彼女が気に入るならそれで充分だと私もこの姿を気に入った
【外に出る…か…人の形になってみたら何だか無性に勇気が湧いてきた気がする、なんでだろうね】
「その答えを教えるために私はあなたに会いに来たのよ」