ある引きこもりの推理
叩きつけられるように閉められたドアを見つめて、思路はため息をついた。肩に落ちた髪を揺らして、困ったように首を振る。
「まったく、騒がしい奴だ……。また大家さんから怒られてしまうではないか。しかし、彼はどうして毎回こんな話ばかり持って来るのかね。氷柱で刺殺された死体の話なんて、面白くもなんともない。もっと楽しい話題を提供してくれなければいかん」
先ほどまで騒々しい客が座っていた場所に目を向けると、そこには口をつけられていない紅茶が置いてある。思路は腕を伸ばしてそれを取ると、さっと飲み干してしまった。そして、眉をひそめて独り言ちた。
「一口も手をつけなかったな。……やはり、リプトンは好きではないのか……」
思路はティーカップを静かに床に置いた。そして、床に座ったままで思い切り伸びをした。スカートから伸びた脚が、何冊かの本を壁際に押しのける。
「……さて」
素早く腕と足を元通りに縮めると、思路はテレビの電源をつけた。
「ようやく邪魔もなくなったことだし、『かまいたちの夜』を始めるとしようかね」
作品名:ある引きこもりの推理 作家名:tei