ゾディアック 12~ 81、82 、83、84、85、86~
「 だけど、面倒な事って・・ マリオン、 一体何があったの? 」2人は私を見つめた。
私は今まで起こった事の全て、ミクの前世の少女の霊に憑かれてから、
自分の前世の幼女の時のカルマが顕れ
今世の親族とはその時の因縁で、そのカルマを今解消している事を話した。
「 凄いですね・・ 人の出逢いは意識の知らない所で、深い意味があるんですね 」コミュウが言った。
「 身内はある意味 回避出来ないものね・・ 魂がワークするには持って来いだよね 」ナアナが笑った。
その時、フラッシュバックが起こり、ナアナの肩越しに青いホログラムが現れた。
それは・・ いつか見た覚えのあるビジョンだった。
西洋の甲冑に身を固めた1人の若い騎士が、風に揺れるひまわり畑を 馬に乗ってポクポク歩いていた。
まるで映画のワンシーンを見ているようなその映像は・・
以前、カヨに見えた前世だった。あの時 カヨは戻れなかったはずだ。
映像は、頭上に、地面から空を仰いでいるシーンに変わった
青い空のずっと高い所を、一羽の鳶が円を描いて飛んでいるのが見えた
薄い雲が流れ・・ 乾いた風が 黄色いひまわりを大きく揺らしていた
まるでスローモーションのように・・ 全ての景色がゆっくりと見えた
瀕死の重傷を負って地面に横たわる騎士から手紙を受け取ると
若い騎士は馬に跨り、必ず届けると約束をしてその場を立ち去って行った。
その若い騎士は、前世のナアナだった。
「 だからあの時、ナアナがメールを送って来たのか!! 」
私は思わず叫んだ。
カヨに初めて聖堂騎士の前世が見えた時、ナアナが
「 何故か今 ゴンチャス巡礼のポスターがあるよ 」とメールをして来た。
あれは、2人がその前世で出逢っていたからだったのだ。
驚いて見ているナアナとコミュウの視線を超え、遥か遠い記憶を見つめていた。
ナアナは死にかけたカヨの前世の 騎士の前を通りかかり、修道女に渡す手紙を預かったのだ。
だが修道女の最期が見えた時、彼女は手紙を受け取ってはいなかった。
おそらく、若い聖堂騎士だったナアナにも、あの後何かが起こったのだろう。
「 どうしたの・・マリオン 」怪訝そうに見つめるナアナの肩越しに、再び若い聖堂騎士の姿が現れた。
~ 83 ~
彼は 騎士団の伝令を伝える任務の途中だった。
瀕死の騎士の手紙を懐に入れると、故郷の修道会に向かったが
彼等を異端とする国王側の兵士に捉えられた。
聖堂騎士団は、教皇以外の君主に対する服従義務や課税が免除され、
金融活動や通行の自由など 多くの特権を有していた。
その為、国王や特権階級から敵意を受けるようになり
資産狙いの目的で、悪魔崇拝や事実無根の罪状で壊滅させられた。
様々な濡れ衣を着せられ、何日にも渡って自白を強要されたが
どんな拷問にも 彼は耐え続けた。
真っ暗な牢獄の中、静かに目を閉じる若い聖堂騎士に
ヤツは聞いた。
「 このような状況下で、おまえは何故そんなに平然としていられる? 」
「 ・・・ 私は、いつも 最善を尽くすだけです 」彼は虫の息で呟いた。
「 いつも、迷うことなく冷静でいられるのだな 」ルシフェルが彼に言った。
「 ・・・ 」
翌朝、彼は他の騎士達と共に 教会の広場に連れて行かれ、民衆の面前で公開火刑に処せられた。
彼は平穏な心で 御魂を神に託し、足元に火が迫って来ても 終始冷静だった。
しかし、最期に 民衆の1人から浴びせられた言葉に 動揺した。
「 お前が私の息子を死なせたんだ!悪魔崇拝のお前を信じたせいで ! 」
泣き叫ぶ老婆は、彼が率いた師団に従軍し戦士した若者の母親だった。
燃え盛る炎の中で、若い聖堂騎士は 初めて後悔した ・・
業火に焼かれながら
「 私のせい・・・ 私のせいで 」
老婆の憎しみの形相が、彼の脳裡に焼き付いて逝った。
その老婆は、今世ナアナの母親だった。
「 マリオン、どうしたの大丈夫? 」ナアナの声に 幻視は消え、病室に戻った。
「 確かに・・ 身内はある意味 回避出来ないな。 魂がワークするには持って来いってわけだ 」
私はニヤリとして言った。
ナアナとコミュウは ぽかんとしていた。
私はナアナに見えた、聖堂騎士団だった時代の前世を話した。
ナアナは黙って考え込んでいたが、暫くして言った。
「 そういえば・・ 子供の頃から、弟が怪我をすると、母は 私のせいだとよく言ったわ 。
弟の爪切りをして少し深爪になった時、母は私を突き飛ばし おまえのせいで弟が!と責め立てた 」
「 それが ナアナのカルマだ。
高い志を抱き真心を尽くした筈が、逆恨みされた弱い人間の呪縛に摑まり
最期に自分の信念が揺らいだんだ 」私は言った。
「 呪縛・・ 私が人から干渉されやすく縛られやすいのは そのせいかしら? 」
「 魂が望むものと、自我が望むものは違うからね 」
「 魂が望むものと 自我が望むもの? 」
「 魂が本当の自分を選択させる為に、物事は起こる。だが自我は、現象的に起こる事のみに対処する。
つまり都合の悪い事は回避するのさ 」
「 でも カヨさんとナアナさんが逢った事も無いのに、前世で出逢っていたなんて・・凄いですね! 」
コミュウが興奮して言った。
「 伝令・・ 手紙・・ 橋渡しして繋ぐ事は、どの時代でもナアナの使命なんだろうね 」
「 そんな大それたこと・・ 信じ難いけどね 」ナアナは笑った。
暫くして2人は帰って行った。
今世、人間歴は カルマからダルマへ移行しつつある。全ての人間にそれは起こっていた。
古代文明の天文学に、
年明けの空に座す星のエネルギーによって、その時代の地球の生命は護られる。
という言い伝えがあった。
今は地球歴2090年、湧き出でる水瓶を抱えたヴィーナスの絵で知られる
愛と自由の女神の象徴、アクエリアスの時代を迎えていた。
横道十二宮が 意識の転生その目的とプロセスを助ける
私は早くこのモルモットにされている病院から出て
確かめたい事があった。
窓を開けると、風はもう春の匂いがした。
~ 84 ~
風が葉を揺らす時
私は 風を見ているだろうか?
いいえ、 私は葉を見ている
揺れる葉を見ながら
私は 風を感じている
風は私を奏でながら
遙かな今より、 永遠に吹き続けている
「 では、明日退院しましょう 」
医者は パソコンを見ながら言った。
「 先生・・ それで・・癌は・・ 発見されたんでしょうか 」
オヤジが怯えながら聞いた。
「 ・・・ そのうちなったでしょう 」
「 それじゃあ今後の治療は、どのように? 」
オヤジは身を乗り出して聞いた。
「 いえ、もう結構ですよ。次の方・・ 」
医者は パソコンに向かったまま、こちらを見ずに看護師に合図した。
「 何だ!あの医者の態度は!! 」診察室を出るとオヤジは激高した。
「 まあまあ、大した事なくてよかったよ。心配かけてすまなかったなオヤジ 」私は宥めながら言った。
「 けしからん!!訴えてやる 」オヤジの剣幕は収まらなかった。
「 まあ、医者と坊主と政治家なんて あんなもんさ。あ、オヤジも政治家か 」私は笑った。
作品名:ゾディアック 12~ 81、82 、83、84、85、86~ 作家名:sakura