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花は咲いたか

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ゴロつき上がりの隊士達が、ニコニコしながら指導を受けているのを見て、さすがの土方も一喝入れようと前へ出た。
Γ顔を引き締めなさい!この構えで撃てないと戦で撃たれるんですよ。自分が撃つ前に撃たれるということは、死ぬかもしれないんです。どういうことかわかっていますか?」
うめ花は必死で声を張り上げていた。
Γ皆、無事に帰って来ましょう」
その一言に騒がしかった隊士達の顔が引き締まる。
伝習隊のゴロつき上がり達は、今まで社会の片隅で邪魔にされ、白い目で見られ、虫けら扱いされて生きて来た。その連中が金をもらって戦に出ているとはいえ、初めて無事に帰る事を望まれたのだ。それも若く見目麗しい娘にだ。
この戦はどう考えても旧幕軍の分が悪い。
蝦夷平定によってつかの間の平和を得てはいたが、新政府軍が束になって攻めて来たら敵うわけがない、と誰でも思っていた。
(所詮、金で雇われただけだ)と。
だから、無事に帰りましょうという言葉が彼らの胸に響いたのだ。
彼らに死ぬ気で突撃しろとは誰でも言うし、撃たれても屍を置き去りにされてしまう。それはわかっていても辛く切ないことに変わりはない。
Γ俺ら、戦が終わったら帰れるのか?」
Γ新政府の奴らをギャフンと言わせてよう、江戸へ帰ろうぜ」
この口々に何でも言える、これがこの部隊の自由な空気だった。
Γその前に命中率をあげるんだ、それ以外に無事帰れる道はない。いいか、雪が溶ける前にこの銃を自在に扱えるようになるんだ。見事にそれが成ったら俺から褒美を出そう」
わあっ~!
と子供のような騒ぎだった。
うめ花が隊士達の心を引き寄せ、土方がそれをしっかり掴んだ。
Γこりゃあうめ花君の勝利だな、いや参った」
大鳥は隣でしきりに唸っていた。
そんな様子を眺め、土方はふと、心の奥からいいようのない空しさがわき上がるのを感じた。
帰るところのある者達。
背水の陣とはいえ、心に余裕のある者達の起こした戦だった。
榎本総裁も大鳥圭介も、降伏という道があり次の新しい世を生きる道が残されている。
(京で新選組を動かして来た俺に、そういう道がないってことはわかっているさ。命が惜しいんじゃない。俺が戦い続けた意味を誰かに知って欲しいだけだ)
と土方は今、心の底から思うのだった。
そんな土方の様子をうめ花は少し離れた場所から見ていた。
Γ先生、よそ見はあとあと。今は構えを見てくださいよ」
Γあっ、ごめんなさい」
慌てて視線を戻す。
土方のいつも毅然とした表情からはほど遠い、壊れそうな目をしていた。たった一瞬だけ見せたそんな目をうめ花は見てしまった。


つづく




作品名:花は咲いたか 作家名:伽羅