網棚の本~つまらないと思ったら~
そんな時、電車が揺れ、ボトンと頭に何かが落ちてきて痛みを伴った。
本だ。誰かの忘れ物だと思った。立っている人たちも自分のではないと目を背ける。
「人生がつまらなくなったら」そう書いてある。
つまらないわけではないが確かに単調な毎日だ。ついその本を読む。
内容は大した内容ではなかったが、なぜか引き込まれてしまう。そんなに分厚い本ではないので20分もあれば読めてしまう。そして最後まで読むとなぜか涙がこぼれた。
そして本を閉じ、目を開けると、すでに降りる駅を降り損ねてしまう。
次の駅で降り、もう一度逆側のホームに向かおうとしたが、電車が来るまで時間があるため、ここから歩いて帰ることにした。我が家はこの駅と降り損ねた駅の丁度中間くらいであったため、歩いた。見慣れぬ風景に新鮮さを感じた。一匹の猫が塀の上で寝ている。その猫を撫でもした。こんなところに大きな楡の木がある。久々に童心に帰った。
ああ・・・そういうことなのか。
本を再び捲り、最後のページをもう一度読む。
「もし、楽しさを思い出したらこの本を電車の網棚に置いてください」
だから、次の日、本を電車の網棚に置いた。
作品名:網棚の本~つまらないと思ったら~ 作家名:夏経院萌華