小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

光と陰、そして立方体

INDEX|25ページ/25ページ|

前のページ
 


 程なくして公園の入口の道路脇に一台の車が止まった。光はその音を聞いて急に立ち上がり、音のする方を眺めた。空は今まで他人の侵入を拒んでいた雨は嘘のように上がっていた。
「迎えが来たから俺、もう行くわ」
「もう行っちゃうの?」
「うん」東屋のベンチから光は腰をあげた「無理言うてここまで連れてきてもろてんねん」
 光が京都在住の祖父母に引き取られた事を織恵は思い出した。
「そうだったね」
「おおきに、織姉」
 光は東屋を飛び出して外の車道に向かって歩き出したが、途中で光の背中がが止まった。
「すまん、これは織姉のやった」
「あっ、本当だ」光が手にしていたのは織恵のキューブだった。
「これは返さんと……」それに気付いた光はそれを軽く上に投げた。カラフルな立方体は宙を舞い、織恵の両手に収まった。織恵が手にしたそれは光の手によりきれいに再び整えられ、美しい姿を取り戻していた。
「またな!」
 光は公園の入り口から手を振って、公園の脇に止まっている車まで走り去った。織恵はまだあどけない、小さな友達の満面の笑みを見て、気が付けば手を振り返していた。
「またね!」
 光の両脇にいる老夫婦が深々とお辞儀をするのを見て、織恵も同じようにお辞儀をした。それから車が走り去ると、織恵は今までモヤモヤしていた気持ちが、さっきまでの天気と同じように澄んで行くのがハッキリとわかった。

「ありがとう、光くん……」
 一人公園にいた織恵はそう呟いて「それ」を何度も回転させた。さっきまでの美しい姿から複雑なモザイクへと変化した。


 
作品名:光と陰、そして立方体 作家名:八馬八朔