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千尋ちゃんと大河くんと薫

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△ 神崎翔の視点 

「ただいま」
「おう、おかえり」
 大学から帰ってきて自宅のリビングでゴロゴロしてると薫が袋を下げて帰ってきた。帰ってくるのは遅いがちゃんとお使いは忘れなかったようだ。
「お前部活ないって言ってたのに随分遅かったな。もう七時半じゃないか。」
「まあ、いろいろあって」
 そう言って、薫は玄関からちらりとリビングに顔を見せてキッチンに向かいエコバックを置くと、今度は自分の部屋に入っていき、わずか四十秒で部屋から中学時代の指定ジャージ姿で出てきた。
 普段着が中学の指定ジャージってお前それでいいのか。
 そしてちゃんとハンガーに制服かけてるんだろうな。
「いろいろって、また誰かの手伝いか?」
 薫が俺の座っているソファーに腰掛けたタイミングで訊いてみた。
 薫は誰かの手伝いをするのが好きなやつで、子供の頃からずっとそうだ。なので帰るのが遅くなる真っ先に思いつく理由がこれだった。
「うん、学校で千尋の手伝いしてた」
「へー」
 千尋ちゃんは薫の中学時代の幼馴染だ。口数は少ないが美人な女の子で、薫とは今でも時折休日に出かけたりしている。
 実は、俺は彼女から薫との恋愛相談を持ちかけられていたりする。
「あと、買い物は大河と一緒に行った」
「……へー」
 大河くんも薫の中学時代からの幼馴染だ。しっかりしていて頭もいい男の子で薫と直接会う事は減っているそうだ。
 実は俺は彼から薫の恋愛相談を持ちかけられていたりする。
「まあ、それだけ。でも意外と時間かかってさ」
「……そうか。まあ変なことしてないなら別にいいんだけどな」
 薫の兄であり、二人の相談役である俺の意見としては、正直仲良くするなら千尋ちゃんか大河くんかどっちか片方にして欲しい。
 俺は二人の恋愛相談をそれぞれ互いに内密にしながらもう五年経つ。最初に相談を受けたのが、今の薫たちと同じ年の時だ。
『薫と出来るだけ一緒にいるにはどうすればいいですか? 』
 二人に全く同じ相談を投げかけられた俺は、女の子の千尋ちゃんには『薫がよく行く図書室で粘れ』といい、男の子の大河くんには『同じ部活の剣道部に入れ』と言った。
 この二人の内に秘めている気持ちはなんとなく察しがついていたし、中学一年生のお願いとなると流石に無下にもできなかった。
 そして、そんなことがずるずる続いて五年経つ。その間に俺は一浪して難関大学に入った。
 早いもんだなーと物思いにふけっていると、リビングのテーブルに置いたスマートフォンに着信が入った。
 手にとってみると、ほぼ同時タイミングで二件のメールが来ていた。
 送り主は千尋ちゃんと大河くん。内容は全く同じ。
『薫に土曜空いてるか訊いてくれませんか? 』
「………」
 それくらい自分で訊けよ、とは思うものの、一方は同性というハンディキャップから奥手気味になっていて、もう一方は異性だからこそ奥手気味になっていて、出来るだけ断られるという行為で傷つきたくないんだろう。そういう事情を考えるとどうしても無下にできない。
「なあ薫? 土曜って空いてるか?」
「あー、うん一日暇だよ」
「わかった」
 千尋ちゃんには『午後二時から空いてるらしい』と送信。大河くんには『午後二時まで空いている』と送信。
 すると、
「あ、メールだ」
「(相変わらず早いな)」
 あの二人は俺から情報をあげると、一分も掛からないうちに薫の携帯電話にメールが来た。
 恐らくメールの文を下書きしてあらかじめ用意しているんだろう。
 しかも大体二人とも同じタイミングで送って来るので、薫にとっては『何故か常に一緒に来る二人のメール』ということで一種の怪奇現象扱いされている。
 アイツが時折言っている、『千尋ちゃんと大河くん、実は愛し合っている説』はここから来てるんだろう。的外れもいいところなんだが。
「あー、ごめん兄ちゃん。土曜日午前も午後も埋まった」
 携帯を見た薫が呟いた。
「ああいいよ、別に予定があったわけじゃないし」
 と、言うことやはりあの二人のそれぞれと何処かに出かけるというわけか。
 この手の相談は千尋ちゃんからはしばしばあったが、大河くんからは随分久しぶりな気がする。
 ひょっとしたら、今日の一件は二人にとって重要なことでもあったのだろうか?
 すこし訊いてみるか。
「なあ薫? 」
「なに? 」
「お前って男も女もいける? 」
「………」
 愛すべき親類に冷たい目線を突き刺され、すこしへこみそうになったが、根が真面目な薫はしっかり答えた。
「別に、困難は多いかもしれないけど、好きになったら異性も同性も関係ないんじゃない? 」
「なるほどな」
 つまり、性別の問題は好きになれば関係ないのだから、ある意味あの二人のスタートラインは同じなわけか。
 元々男なんだか女なんだか見分けがつかない薫だからこそ、同性異性にそこまでの相違を感じないのかもしれない。勝手な想像だが。
「じゃあお前って好きな人いるのか」
 つまり、目下最大の問題はこれなわけだ。
 この問題の答えとして、一番良くなおかつ一番可能性の高いのは好きな人がいないパターンだ。
「……まあ、一応。付き合ってはいないけど」
「え」
 あっさりそう答えた。というか答えられるんだ。ていうかいるんだ。
「え? 誰? 名前は? 」
「いや、流石にそれは……」
「じゃあヒントだけでも」
「うーん」
 薫は首をひねって、ポツリと呟いた。
「幼馴染、かな」