ポニーテールにシュシュ
隼人は30分後、彼女のマンションの下にいた。
中谷の名前の駐車場には車がなかった。少し離れた道路上に隼人は自分の車を駐車させるとマンションの暗闇に潜み、彼女の帰宅を待った。
コンビニ帰りの彼女は車を自分のパーキングに停めると白いビニール袋を手に提げ降りてきた。
隼人はすばやく駆け寄り彼女の背後に廻ると、指を背中に突き立てた。
「騒ぐな!刺すぞっ」
「ひっ・・・」しゃがみこもうとする彼女を隼人は起き上がらせると
「そのまま部屋まで行け。大きな声出したら刺すからなっ!」と低い威圧感のある声で言った。
彼女は震えながらマンションのキーを回す。そして言われた通り2階の自分の部屋まで来た。
「一人か?」
「はい・・・」消え入りそうな声で中谷みさきは言った。
先に突き飛ばすようにして隼人は彼女を部屋に入れた。そしてすぐ電気を付けた。
「騒ぐんじゃないぞ」そう言うと隼人はキッチンへ行き本物のぺティナイフを手にした。
「悪かったな、こういう事はやりたかなかったんだけどさ。くつろげよ」
「ごめんなさい」小さな声で中谷みさきは言った。
「ん、何がごめんなさいなんだ。意味がわかんないんだけど」
「ごめんなさい・・・」彼女はそれしか言えなかった。
「何で、私なのって思ってんだろ?」
「・・・・・」
「まあいい。脱げよ」隼人は一人暮らしの彼女のシングルベッドに腰をかけるとナイフを左右に揺らし、中谷みさきに命令した。
彼女は泣きだして、また「ごめんなさい」と言った。
マクドの中で優雅な色香を放っていた、ちょっと品のある姿はなかった。
隼人はこんなにも残虐になれるのか自身、不思議だった。
少しの喧嘩ならやった事がある。しかし今まで女性を泣かした事はなかった。
泣かす理由もなかったからだ。ましてやナイフで女性を脅すなんて卑劣な事は考えた事も無かった。自分でドラマの演技でもやってんじゃないかと、どこか遠くで見ている自身もいた。
「ちょっと脱いで見せてくれれば帰るからよ。脱げよ」
「いやっ・・・」
「欲求不満なんだろ」
「・・・・・」
「そうか、手を出せ。こっちに右手を出せよ。早くしろっ!」少し大きな声で怒鳴った。
おそるおそる従った中谷みさきは右手を隼人の前に差し出した。
隼人は彼女の腕を引っ張ると、彼女の目の前にしゃがみこんだ。
「ここが感じるんだろ」と言って彼女の右手薬指を噛んだ。
「いやっ!」反射的に中谷みさきは手を引っ込めた。
「ふふっ、悪かったな。冗談だよ」
「あなた・・・ブログの人?」
「なんの事だ、しらねーよ。それより脱いでくれないか。見たいんだ」隼人はナイフを持たない手で中谷みさきの頬をペチペチと触った。そして早くしろよ!と威圧的に言った。
覚悟を決めたのか彼女は立ち上がるとゆっくり脱ぎ始めた。
ブラウスのボタンが上手くはずせない。足が震えてる。隼人は黙って無表情で見ていた。
スカートを足元に落とすと、白い小さなパンティが浮き上がった。
「それも脱げよ。全部!」
中谷みさきは脱ぎながらいつの間にか涙が止まっていた。
室内灯の下、全裸になった彼女は右手で胸を、左手で黒々した股間を隠した。
隼人は何も言わないで見ている。
沈黙の時間が彼女には耐えられない。
「ごめんなさい。これで勘弁して・・・」抑えてた涙がまた頬を濡らした。
「ちょっと聞いていいか?」
「はい・・・」
「なかやと言うのか、なかたにって言うのか?」
「なかやです・・・」
「今はどっちだ?『なかや』か『みさき』か?」
「えっ?」
「どっちかと聞いてんだ。なかやかみさきか?!」
「やっぱりブログの人なの?」
「関係ね~よ。答えろよ」
「・・・・・なかやです」
隼人は中谷が脱いだ服を手に取ると、裸の彼女に投げつけた。
「着てもいいぞ。用件は済んだ。悪かったな」
「ねえ、ブログの人なの?」
隼人は彼女の声を後ろにすると、急ぎ足でドアを開けて出て行った。
階段を駆け足で下り、そして闇の中に消えた。
走り逃げ去る途中、隼人はポニーテールのシュシュが今日は違う色だったなと気がついた。
(完)
作品名:ポニーテールにシュシュ 作家名:海野ごはん