ポニーテールにシュシュ
それから30分、隼人は彼女のブログと背中を交互に見ながら、ストーカーを続けた。
そしてノートパソコンを閉じ立ち上がる彼女を見やると慌てて追いかけ、駐車場までつられて出てきてしまった。
どうすんだよ・・・ここでやめとけば、ただの面白かったで終わるじゃないか・・・そんな隼人自身の気持ちを押さえ込み、本当の悪者になった彼は、発進した彼女の車をこっそり追いかけリアルストーカーになってしまった。
彼女のマンションはマクドから5分のすぐ近くだった。駐車場へ彼女が車を停めるのを確認して隼人は一度通り過ぎて、また戻ってきた。そして「中谷」と書いてあるのを確認した。探偵気分半半、ストーカー半半、面白さ半半、自分の行動に呆れながらも、とうとう居場所まで突き止めてしまった。
人間はいつだってダメだとわかっちゃいるが常識外の行動をする。いや、自分だけか。
節操が無い事を責めたら彼の今までの人生は落ち込みっぱなしになる情けない。
とりあえず、このマンションに住んでる中谷さん・・なかやさん?なかたにさん?どちらかわからないけどポニテールの「みさき」というハンドルネームの彼女はSNSから抜け出して隼人の目の前にリアルを伴った「みさき」になった。
隼人は自宅に帰り、彼女のブログ日記を最初から読み返した。
バーチャル世界のみさきは性に関して結構自由に書いていた。男遍歴、好きな体位、欲求不満なの・・・。そういう普段、人には絶対言うはずのない事を、本当の事か嘘か知らないけど女性には珍しく赤裸々な言葉で綴り、バーチャル住人の中では人気を得ていた。
隼人は読みながら彼女の事をいろいろ想像した。
昼間の彼女の背中はとてもそんな雰囲気ではなかった・・・というか、背中だけでわかるもんじゃないけど、一人の女性の佇まいというか・・・いや、考えてる事が全部表に出るはずはないんだけど、ギャップというか、女性らしい雰囲気からは、そんないやらしいなんて・・・・。
いやいや、私はこんないやらしい事考えてますよ~って表に出して歩く人間がよっぽど馬鹿だ。人の心の奥底は秘密にしてるからこそ、世の中は円滑に廻っているのかもしれない。
そして溜まった澱を時折、吐き出しながら心と世の中のバランスを取り合っているのだ。
みさきの毒を吐き出す場所はブログだ。
癒しを求める場所、寂しさや喜びを共感してもらいたい場所、内緒だからこそ心置きなく、いろいろ吐き出せる。
中谷さんの、人には知られたくない秘密の世界「みさき」をこっそり知った事に隼人は自身も重ねて後悔してしまった。
知られたくないのに知って欲しい・・・矛盾してるけど、それが心のバランスを取る唯一の方法。SNSバーチャルは現代の懺悔室なのかもしれない。
秘密を知った牧師は決して公開しない。神に祈る事で救われるけど、SNSに神様はいない。けど書く事で救われた気になるSNSは寂しく忙しい現代人の心のよりどころなのは間違いないようだ。
読めば読む程、みさきは奔放で魅力ある女性だった。
ここに書いてあるのは中谷さんとは違う、みさきという人格を持った女性なのだろう。どっちも本人だけどどっちが本当?どっちも本当?いや、リアルも中谷さんはこんな人なのかも・・・隼人は思った。
盗み見をしてしまったばっかりに彼は中谷みさきのことが非常に気になる存在になってしまった。
そして隼人はメールを出してみることにした。
作品名:ポニーテールにシュシュ 作家名:海野ごはん