小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

見栄プリン

INDEX|7ページ/7ページ|

前のページ
 




 家に帰り着くと、後ろ手に扉の鍵を閉めた。靴を脱ぎ、リビングへ足を進めるとストーブに火を灯す。煌々と燃えさかる炎に目をやりつつ、ぼんやりと自分の行動を顧みる。自分の唇に触れ、感触を確かめる。恋心は、今や、腐りきった傷口のようにじゅくじゅくとした触感がした。
 この想いが癒えることはあるのだろうか。茫洋と宙を見ながら考え込む。
 姉が目を覚まさなかったら、きっとこの想いは腐ったままに放置されて、腐臭を放ち続けることだろう。姉が目を覚ましたら、この想いは厳重に蓋をされて心のどこかにある夢の島へ埋め立てられることだろう。
 ふと、この想いを誰かに打ち明けたくなった。ぶちまけると言っても良い。ともかく、誰かに強く訴えたかった。誰が良いだろうかと考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは今、病院で眠る姉の姿だ。今、無性に姉と話し合いたかった。有り体に言うなら、喧嘩をしたかった。気兼ねなく言い合って、相手の勘に障ることだってずけずけとぶつけ合うような、姉妹喧嘩をしたくて仕方がなかった。
 だが、姉は今、眠っている。明日には死んでいるかも知れない。
 途端に涙がこみ上げてきた。泣きそうになり、しかし、そんな自分の弱さが何より許せなかった。陳腐な話だ。居なくなってから気づくその愚かさはそこら中に転がっているお話なのに、自分がいざその立場に立ってみるとこんなにもどうしようもない。
 涙を堪えて、立ち上がる。強がりが必要だった。姉に見栄を張る必要があった。
 ふと、思い立ち冷蔵庫へ足を向ける。昔から姉の隠し事を見抜くのは得意だった。点数の悪かったテストの隠し場所も、後ろめたい悪戯も、気になる異性すらも。
 好きな人をかすめ取るような、卑怯なまねは私には出来ない。そんな自分を許せない。私にせいぜい出来るのは姉の好きな物をかすめ取るだけ。
 それで手打ち。このくだらない話にも幕を下ろす。
 冷蔵庫の中段右奥。そこに姉が隠したプリンがある
作品名:見栄プリン 作家名:こゆるり