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おん

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ぼくは どうして生まれたのだろう。

何気なくいつもみんなの中に紛れてるのに 「グループになりましょう」と言われると ぼくは独りぼっちだ。「グループごとに並んでください」って並んでも ボクの前にも後ろにも誰もいない。ぼく独りが はみだしている。形が変わると、誰もがペアなのに そうだ 三つのヤツもいるのに ぼくはひとつなんだ。

 ぼくには お母さんの音は聞こえない。

どんなに叫んでも 苦しく響くだけだ。ときどき軽やかに鼻にかかって可愛いねって言われても ぼくの前には、うっすらと違う影がみえる。(ぅ、アタチのこと?)
もしも ぼくにお母さんがいたら ぼくはもう ぼくでなくなる……。
それは、わかっているんだ。だけど、ぼくだって本当は寂しい。

 ぼくのほうが アイツより役に立ってるさ。

ほかのヤツのことなんて 気にしなくていいんだろうけど、やっぱりアイツのことだけは気に掛るんだ。「どうしてアイツが?」「なんで アイツはあそこにいるんだ」と何度も考えた。ぼくのように 先頭にくることなんて ないのに ちゃんとお母さんといっしょにグループになっている。アイツが 本当なら ぼくのいる場所じゃないのかなぁと思ったりした。でも、アイツは… アイツの場所から動かない。

 ぼくは ぼくでいいんだよね。

ぼくは特別なんだ。そう ずっとずっと昔から『京』としてみんなとは違う使命があるんだ。一番後ろにあっても これがぼくの大切な場所だと思う。「京の夢大阪の夢」なんてね。
そうさ、ぼくは『京』の姿で幼(拗)いヤツがうまく言えるように 覚えさせるためにも必要だったって 聞いたことがある。少し 自信が湧いてきたよ。

 ぼくだって 真ん中に入(はい)れたのかな。

どこかの 二十六人衆の中に ぼくとそっくりなヤツがいる。ソイツは 真ん中辺りでひと山多いヤツと並んでいるんだ。言葉は違うけれど 嬉しいな。ソイツはいつも楽しんでいるのだろうか。一度訊いてみたいな。なんだか 気分がウキウキ ルンルンしてきた。

 ぼくは 何にこだわっていたんだろう。

もうアイツとも仲良くできるかな。たぶん。ぼくとアイツが並んだら、みんなは迷うだろうな。アイツとぼく、どちらが前にいても「なんて言えばいいの?」って 金魚みたいに口をパクパクさせるんじゃないかな。

あ、アイツ そろそろ紹介してあげないといけないな。
ずっと ぼくは アイツのこと避けてきた。 
「ごめん」
アイツが居なかったら 困ることがあるもんな。アイツにも代役はいないんだ。
それに 書きにくさからいったら ぼくもアイツも 似た者同士じゃないかな。

「ぼくと友だちになってください」

あれ、駄目だ。アイツのこと 紹介できてないや。 
もう一度。

 「ぼくと仲良くしてください」

あぁ、そりゃ無理 無理。さっき言ったばかりだよね。
よし、もう一度。

 みなさん、どうぞ アイツをよろしく。きっとみなさんのお話の中、お喋りの中で
ぼくも アイツも きっと素敵な場面のひとつになれると思うんです。アイツのことを言うときは、優しく息を漏らすように お母さんの音まで響かせてみてください。
そして、ぼくは 独りじゃないときは 撥ねまわるんだ。みんなの鼻の中に空気が通るようにスカッとね。あらら、鼻が通らない? そのときこそ、ぼくは 活躍するかもね。
 実は 子どもだけど もしも 言葉の頭に置いてくれたなら お母さんにもなれるんだ。ちょっぴり甘えて 鼻にかけて言ってみてください。甘えん坊のお母さんだけどね。案外、いい感じなんだよ。

 ねえ、ぼくとアイツ 見つけた?
 もう みんな気付いてるよね。

 アイツは 『を』
 ぼくは 『ん』 

「ん?」 
そう とっても上手に言ってくれてありがとう。
「をん?」
んーーー。 それでもいいけど……。

ぼくたちが連なった言葉が み『ん』な『を』 幸せにすることができたら嬉しいです。


   ― 了 ―
作品名:おん 作家名:甜茶