ihatov88の徒然日記
53 若気の至り 1.12
1月10日と言えば「十日戎(とうかえびす)」なんです。一億二千万人の人が御存知か否かはわかりませんが、要は神社でその日お祭りをやってるわけです。
兵庫県は西宮市にある西宮神社を御存知でしょうか?今回はそこでのお話なんですけど、1月10日の早朝に神社の門が開けられて男どもがおよそ300メートルほどの境内を走り抜けて「一番福」をとるというイベントをやっているのです。ここまで言うとおわかりの方がいらっしゃるかと思います、多分。
西宮と言えば甲子園球場の所在地、そして……。ワタクシの出身地なのであります。だからこのイベントについてはたぶん地元の人間ならよく知っております。関西圏はともかくとして他所の地方の方はどれくらい御存知なのかは気になるところでもあります。毎年この日はニュースやってますが関西ローカルかどうかって地元じゃわかりづらいですからね……。
何でも一番福になったら副賞がいっぱいあって、それだけでもいい思いをするみたいです。ちなみに三番福までありまして、この日のために体調整えて挑戦する人がいるとかいないとか。
石畳の上を走ります、途中に木があったりコーナリングが急だったり、さらには大勢の人がいっぺんに走り出すのでライン取りや事前の想定もアテになるかはわかりませんし、足が速いだけじゃ一番とるのは難しいようです。実際にぶっちぎった人は滅多に見かけませんし、ゴール直前で転んだ人も多々おります。「福男」だけに運もかなりのポイントを占めているようです。
現在はスタート位置は抽選で決められるようです。というのも以前心ない消防士の一団が最前列でアメフトばりのラインを作ってその間を仲間の一人すり抜けて一番を取ったという経緯があったためです。
――ごめんなさいね、また前フリ長くなりました。本題入ります。
今から19年前、平成8年の今ごろ。福男のイベント、参加したんですよ!
当時は地元の大学生でした。学校も市内にあって周辺には暇な仲間が3人。4人で参加しようとなったんです。
「ワシら運動部ちゃうけど、一番取れるかな?」
「体力だけちゃうで。運よ、運。ラック」
体力にはもちろん自信はない。勢いだけなら人一倍、人の一倍なら人と同じやんかってなツッコミはさておき、夜は未だ明けない早朝西宮神社に集まったんです。震災から一年、隣の阪神高速の高架が崩れて落ちたのもこの辺り、その下の国道43号は未だ通行規制中のそんな折、いつの時代も1月の未明は寒いのですよ、極寒です。大した準備もすることもない普段着の4人、寒いといってる時点でただのお祭り気分。
「おお、目の前にラーメン屋あるやん」
スタート地点の門、道路を挟んで向かいからなにやらいいにおい。そうです、ラーメン屋です。
「なあなあ、あれ食ってから走ろうぜ」残り時間はおよそ30分。
「ほんまやな、せっかく来たから食うて行こうで」
易きに流れる我々、門の前に並ばずラーメンの列に並ぶ。待つことおよそ25分、椅子に座って注文して、うまそうなラーメンが運ばれてきて割り箸を割ったその瞬間です!
ドン!ドドン!
後ろの方で太鼓の音がしたかと思うと怒号と喚声が入り混じる音が。そうです、ラーメン待ってる間に門が開かれちゃったのです。
「おいおい」
「間に合わなんだか……」
「今から走るか?」
一同沈黙、そして大笑い。
「行くわけないやろ」
「そんなんしたらラーメン、きしめんになってまうで」
「寒いからラーメン食うてからいこ」
「ほんでよ、ワシら何しにこんな夜中からここにおんねん?」
「皆まで言うな……」
ズルズルとラーメンをすする音が夜明け前の神社前で響く。我々に福の神は舞い降りるのか……!?
作品名:ihatov88の徒然日記 作家名:八馬八朔