海の星
驚いたぼくはもう一度、今までお世話になった店をふりかえった。でも、そこに家はなく、広い駐車場だった。
「あの、すみません。となりの店は……」
ぼくはそばの土産物屋に行って聞いてみた。
すると、その店の奥さんは怪訝な顔つきでいろいろ話してくれた。
「店? ああ、ずいぶん前にあったっけ。もう三十年以上前だ。お兄さん、若いのによく知ってるね」
奥さんの話によると、三十年前まではたしかにその店はこの場所にあったそうだ。
都会から引越してきた初老の父親と病気の娘の家族。船長だったという父親は、世界中から集めた海のグッズを土産物として売っていた。ところが娘が亡くなったあと、父親は小船で沖に出たまま帰らなかったという。
ぼくは頭の中が混乱して、お礼もそこそこに店を出ると、あてもなく渚を歩いた。
どれくらいたっただろう。ようやく帰る気になったとき、白い星形の貝を見つけた。
いや、それは貝殻ではなく、化石のように固く白くなったひとでだった。
「……ありがとう」
ぼくはひとでをポケットにしまうと、海を後にした。