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夏経院萌華
夏経院萌華
novelistID. 50868
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LINE~振り込め詐欺~

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「心配せんでいいよ」
心配なのはお金だ。
「ああ・・・とにかく気を付けてくれよ」
もう怒りを通り越して呆れた。時間の無駄である。ただ、後に引けない。もう少しの我慢だ。もう少しで大金が手に入る。
「婆ちゃん。こっちもあまり時間がないんだ。悪いけど明日取りに行ってもいいかな」
「ああ。いいよ。明日はいるから。一日中いるから取りにおいで」
「わかった。ホントごめんな。じゃあ明日。おやすみ」
「おやすみ」
電話を切る。 
明日こそ居てくれよ。そう願いながら安ホテルの湿った布団で眠りについた。
 朝になり、昨日とは違うスーツを着て、婆ちゃんの家に向かった。途中、葬儀屋に向かい、パンフレットを貰う。色々と話を聞き出し、名刺をもらう。これで俺も葬儀屋だ。
 新しいシナリオを頭で作りだし、不測事態に備える。
婆ちゃんの家に行くのは夕方がいいだろう。夕方のトワイライトは物が見えにくい。昨日の隣のおばさんに見つかってもバレやしないだろうと踏んでいたからだ。
婆ちゃんの家に近づく。何やら婆ちゃんの家が騒がしい。
 そこには白と黒の鯨幕が下がっていた。
葬式?まさか。恐る恐る近寄る。
アンドウチヨの葬儀であった。チヨとはあの婆ちゃんの名前だ。
俺は愕然とし、その場で立ちすくんでしまった。
もうお金は取れない。もうここに居る意味がない。立ち去ろうとした時、
「あら。ネモトさんですよね」と声をかけられドキリとした。
昨日会った隣のおばさんだ。よく覚えていたものだと感心したが、それどころではない。さっさと逃げるべきだった。
「はい。今日来てビックリです」と平静を装い答えると
「こんなところではなんですから。ご焼香してあげてください」
「あ。あはい。」
後戻りできない。適当にごまかして帰ろう。そうしよう。
「お婆ちゃん。ネモトさん来てくれたわよ」
いや、知らないと思うけど・・・・
とりあえずご焼香をして、辺りを見回した。隣のおばちゃんだけが慌ただしくしている。
「ご家族の方は・・・?」と聞くと、
少し、ムッとした様子で
「ああ。一応。亡くなった息子さんのお嫁さんに電話したんですよ。そしたら、『私には関係ありませんので、そちらで勝手にやってください』っていうですよ。まあ。もう他人かもしれないですけど、一つ屋根の下に一緒に住んだ間柄じゃありませんか。」
といいお茶を俺に注いだ。
頭をちょこんと下げ、そのお茶をズズっとすすり、婆ちゃんの死因を聞いてみた。
 おばさんは、待ってましたとばかりに俺に顔を近づけ、
「あのね。これは私の勘なんだけどね。お婆ちゃん死んだ日大金を持っていたのよ。それがもう散乱してね・・・・まあ。ネコババした人もたくさんいたんだけど、警察が大半をかき集めてなんとかね。で・・・たぶん。あれ。振り込め詐欺に持っていく途中だったんじゃないかなっておもうのよね」
なんて勘のいいおばさんだ。俺の心臓はバクバクと音をたてはじめる。それを隠すように、「で・・・結局なんで亡くなったんですか」と聞くと、おばちゃんは手を叩き、
「あら。そうだったわね。交通事故よ。あの日、交通事故にあって、そりゃ大手術だったそうよ。でもね。次の日に亡くなったよ」とお茶をすすりながら婆ちゃんの遺影を見る。
俺もつられて、微笑む婆ちゃんの遺影を見る。
しばし、俺は考える。
 じゃあ。電話に出たあの老婆は誰なのだ。婆ちゃんでなければ一体誰なのだ。
遺影を見ながら、俺は背筋に何かが凍ったものを感じた。
「まさかなぁ」そうつぶやくと、
「何が?」
「いや。何でもありません。もうアンドウさんには会うことができませんので、私は・・・」
座っていた足が痺れていたが立ち上がり帰ろうとする。
「ああ。そうですわね。生前葬でしたっけ。もう関係ないわよね。ふふふ」
「あはは。そうですね」
つられて笑う。いや愛想笑いだ。早くこの場から去りたい。その一心で。
俺は急ぎ早に婆ちゃんの家を出た。
 家が見えなると、わけもなく走りだした。
息が切れるまで走った。そして、携帯が胸の中で鳴っているのに気づいた。
この携帯番号を知っている人。婆ちゃん。鳴りつづける携帯を見る。婆ちゃんの番号が光と共に映し出される。メモだ。メモが残されていた。
だが、もし、出ないと疑われる。恐る恐る電話に出た。
「もしもし」
「ああ・・・ヤスオかい」
婆ちゃんの声だ。
「ごめんな。お金渡せなくて。」
「いったい。誰なんだ」
「なに言ってるんじゃ。婆ちゃんだよ」
「婆ちゃん?」
「そうだよ婆ちゃんだよ。忘れたのかい」
「もうやめてくれ」
俺は怒鳴った。辺りの空気が寒気を帯び、冷えるような気配がした。
携帯を耳に当てたまま、辺りを見る。
「ヤスオや。会いに来てくれてありがとな」
俺は持っていた携帯を投げ捨て、ワーと叫びながらその場を転げながら立ち去った。了