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夏経院萌華
夏経院萌華
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LINE~振り込め詐欺~

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携帯電話を手に取り、あらかじめ下調べをしていた、あの家の電話番号に電話をかけた。
「あっ。もしもし俺だけど・・・・・わかるかなぁ・・・・。忘れちゃったかな」
大体決まってその台詞から始まる。元々、生活苦から始めたこの詐欺であったが、今ではもう抜け出せないところまでやってきてしまった。威張れることではないが、収入のなかった俺が、今や年間数千万を荒稼ぎする詐欺師になっていたのだ。もちろん、一匹狼だ。こう言う商売は徒党を組むと碌なことがない。にげるにしても身軽な方がいい。そして手っ取り早い、振り込め詐欺に手を出したのだ。
「だいぶ耳も遠くなったからのぅ」
「俺だよ。婆ちゃん」
だいたいこれで駄目な場合は電話を切る。見込みのないカモには時間の無駄なのだ。
「もしかして、ヤスオかい」
よし。これで8割成功した。
「そうだよ。ヤスオだよ。久しぶりだね。」
「そうかい。そうかい」
「婆ちゃん元気だったかい」
「ああ。元気じゃよ」
あとはうまくお金を引き出すだけだ。ただし、焦ってはいけない。最近の年寄りも警戒を強めている。
「婆ちゃん。また電話するからさ。婆ちゃん今メモ取れる?」
「ああ。取れるよ。」
「携帯番号言うから何かあったら電話してよ。いつでも構わないからさ」
これで準備万端だ。
下調べした甲斐があった。この婆ちゃんの息子はすでに他界していて息子の嫁とは疎遠になっていたから連絡などしないことも。
後は婆ちゃんと何度かやり取りをして信用を得ればいいのだ。あまり長い時間をかけるとボロが出てしまう。その見極めが大事だ。でも今の俺には容易いことだった。
「あっ。もしもし。婆ちゃん。俺だけど」
「ああ。ヤスオかい」
「そうだよ。ヤスオだよ。それからさ。婆ちゃん。今、俺、俺とか言う奴が騙そうとする悪い人いるから気を付けてよ」
何を言う。
「ああ。そうじゃな。」
もう遅いのだけど。
「ところでさ。婆ちゃん。相談があるんだけど・・・・」
後はシナリオ通り、うまく行けば大金が手に入る。
「じゃあ。婆ちゃん、来週の日曜日、○△駅の西口で10時に待っているから。うん。ホント助かるよ。ありがとな。」
電話を切り、ホッとため息をついた。
 この街ともおさらばだ。
これで300万が手に入る。意気揚々と安ホテルを出た。
 お金の受け渡しの時が一番複雑な気分になる。
か弱いお年寄りを騙しお金をせしめるわけだし。多少の罪悪感は持ち合わせている。そんな事だから顔など見ることもできない。人としての良心の呵責から涙すら流すときもある。だからなおさら、騙した相手からの尚の信用を得る場合もあるのだ。
そしてついに決着の時がやってきた。
俺は10時の約束より2時間は早く着く。もし、警察に連絡をされているのなら、私服警官がウロウロするだろう。異様な雰囲気を確かめるために早めに来るのだ。これにより、何度、捕まるのを逃れているかわからない。場数だけは誰にも負けない。私服警官ほど、わかりやすい生き物はいない。それを観察するために、待ち合わせ場所がほどなく見えるコーヒーショップを選んだのだ。
今のところ、連絡されている雰囲気はない。美味くもないコーヒーを飲み、そのたびにトイレに行く。ただやみくもに外を眺めていては疑われる。時折読書などに勤しみながら、警戒を怠らない。
10時が過ぎた。俺の心臓がキューとなる。何度経験しても嫌なシーンだ。
だけど約束の時間が10分過ぎてもくる気配がない。だが、ここで焦って電話などしてしまってはいけない。その見極めも大事な要素の一つなのだ。
もうしばらく待ってみよう。
 俺はコーヒーを飲みながら、時計を見た。11時を少し過ぎていた。
ばれたか。一抹の不安がよぎる。
結局、その日、婆ちゃんは姿を現すことはなかった。
 その日の夕方。婆ちゃんに電話をした。
「もしもし・・・・」
「ああ・・・ヤスオかい」
「そうだよ。今日はどうしちゃったんだよ」
「ごめんなぁ。ヤスオ。足の骨折ってしまってなぁ。行けなくなっちゃったんだよ」
良かった。気づかれていたわけでない。俺はホッとした。
「そっか。だったら、電話してくれたらよかったのに。ほら。前に教えた番号あったろ。そこにくれたらよかったのに」
「ああ。そうだったなぁ。ごめんよ」
「まあ。うごけないなら仕方ないな。じゃあ取りに行くよ」
この手の犯罪で取りに行くパターンは至極リスクが伴う。だが、この婆ちゃんなら大丈夫だろう。警察には言ってはいないだろう。それに少し時間をかけ過ぎた。俺は久々に焦っていた。
「そっかぁ。悪いのぅ。じゃあ。明日、取りにおいで」
全く世話の焼ける婆ちゃんだ。
 次の日、俺はスーツに着替えた。スーツや作業着はなぜか人を安心させる。白衣などもそうだ。だからそういったアイテムは一通りそろえている。
準備は整い、いざ、婆ちゃんの家に行く。
迂闊に近づけば警察が待っているかもしれない恐怖が俺の中に渦巻く。だが、意を決し、婆ちゃんの家のチャイムを押した。
返事がない。
どうしたのだろう。もう一度チャイムを押す。玄関からは何も聞こえてこない。
今度はなんだ?
俺はドアノブに手を掛け回そうとした、その時、
「どちら様?」と隣の家の小窓がガラッと開き声がする。
ギクリとしたが、ここで慌ててはいけない。冷静さを装う。
「すみません。こちらはアンドウさんのお宅ですよね」
「そうですけど・・・」明らかに不審な様子でこちらを見る。
「わたくし、生前葬の件でこちらに参ったのですが、お留守なんですかね」
「ああ・・・お婆ちゃんは・・・・」と相手の話を聞く前に
「いえ。結構です。また。日を改めてお伺いしますので、わたくし、ネモトと申します。
よろしくお伝えください」とだけいい、その場から立ち去った。
危なかった。ネモトは俺の数ある偽名の一つなのだ。こういう時にサッと出てよかった。しかし、顔を見られてしまった。まあ。いい。どうせ顔なんか覚えていないだろう。念には念を入れて、明日からメガネをかけて出かけよう。
またしても婆ちゃんに会えず。お金にも出会えなかった。
あまり長い滞在は好まない。こんなに長期戦になるのならアパートを借りればよかったくらいだった。
 安ホテルに着くと、フロントが俺を見て、
「商談うまく行きましたか」と聞いてくる。
俺は気のない返事をし、あいそ笑いを振りまいた。
 部屋に戻り、ドカッと座り込んだ。だいぶ疲れた。このまま眠ってしまうのではないと思う眠気が襲う。しかし、その前に婆ちゃんに電話をしなくてはいけない。
まったく、どこまで煩わせるのだ。
怒りが沸々とわいてくる。だが、ここで癇癪をおこせば元も子もない。一旦深呼吸をし、
携帯を拾い上げた。すると携帯が突然鳴り響く。婆ちゃんだ。俺はすぐにオンを押した。
「ヤスオかい」虚を突かれた。慌てて、返事をしたため
「ああ・・・ヤスだよ。あ。ヤスオだよ」と間抜けな返答をする。
「今日も来てくれていたんだね。ごめんよ。」
少し元気がない。
「どうしたんだよ。婆ちゃん」
「ああ。急に具合が悪くなって病院に行くことになったんだよ。」
「だ、大丈夫か?」
思わず、大きな声を出す。これは本心から出た言葉だ。と言うか今ここで死なれても困る。