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海野ごはん
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中年スマッシュ 君に届け

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「中年スマッシュ」 ~君に届け~




高校生の卒業式の日、手紙をもらった。
一年後輩の女子からだった。髪が長くバドミントンが僕よりうまかった。
その手紙はラブレターだった。手紙のほかにギターのピッグが入っていた。
プラスチックの三角形をした、ギターの弦を弾くやつだ。
そのピッグにシャトルの羽の切れ端がテープで止めてあった。
僕は彼女のことをあまり気にしていなかったというのが本音だ。簡単に言えば彼女の片思い。
シャトルの切れ端の意味は、バドミントンを忘れないでね・・ぐらいしか思わなかった。
でも、変わったプレゼントで印象に残った。
それからしばらくはギターを弾くたび彼女のことを思い出した。
だけど、
そのうちギターも弾かなくなり、一緒に彼女のことも忘れてしまった。

僕は社会人になり、結婚もしたが、離婚も経験した。
45歳で一人になり、暇をもてあました。
近くの小学校の体育館で夕方になると、
同好会らしき人達でバドミントンをしている姿が、体育館のガラス越しに見えた。
「パシン、パシン」というシャトルを打つ音がここちよく聞こえてくるので
つい、覗いてみることにした。
中年の男女が10人くらいでネットを挟み、楽しそうにゲームをしていた。
30代から50代くらいまで和気あいあいと云った雰囲気だ。
その中に中心選手というか、目立ってうまい女性がいた。
年齢は僕と同じくらいで、彼女がスマッシュを打つと糸を引くようなきれいな直線で
相手コートに突き刺さった。惚れ惚れするようなスマッシュだった。

次の週もシャトルを打つ音につられて、体育館を覗き込んでしまった。
また、あの彼女のスマッシュが気持ちよく相手のコートに突き刺さっていた。僕はあのスマッシュを受けてみたいと思った。まだ、できるんじゃないだろうか、高校以来27年もバドミントンはやっていなかったけど、あのスマッシュに立ち向かっていく時の快感はきっとあるはずだと思った。
僕は近くで見物してる同好会の人に、入会の話しをうかがわせてもらった。
さっそく、次週から参加させてもらえることになった。
中年大歓迎だった。
僕は 新しい久しぶりのラケットを買いに行くことにした。
カーボンファイバーのものすごく軽いやつが手ごろな価格であった。
昔と比べたら失礼だけど、ずいぶん進歩したものだ。昔は木枠にスチールのシャフトだった。
久しぶりの感触だった。ラケットを振ると「ビュッ」と空気を切る音がする。
気持ちがいい。少しばかり少年時代に戻ったようだった。
その場で何度かスマッシュの体勢でラケットを振ってみた。
興奮が蘇ってくる。
僕はワクワクとした気持ちで、家に持ち帰り来週の体育館でのバドミントンを楽しみにした。