アバンチュール×フリーマーケット ~帰省からの変奏
遺書といえば、これまでの自分の印象を自分の思い通りに変えさせる力をもっているのが遺書ですよね。本当はこんな風に考えていたんだ。とか、思わせることができるし、だいたい、死んだ人間のこと、疑ったりするのは、日本人的には、よくないことだから。だから、遺書だけはよく考えて執筆しなければなりません。しかも、まさか遺書に事実無根の偽証を書くとは思うまい。だって、命を質札にしているんですからね。まさに、ここが付け目なんです。昔、別冊太陽で、遺書の特集号がでたことがあって、確か自分は購入していたはずだと思って、書庫へこもって棚と棚の狭い空間にはさまって、ぎゅうぎゅうとしゃがんで、首をおもいきりへしゃげさせて、埃を目一杯吸い込んで探した。けど無かった。江戸川乱歩エログロヌードの時代。とか、発禁本1・2・3とか、そういうのばかりで。仕方ないので思いつくフレーズを、埃まみれの棚に指で書いた。「曰く、人生不可解」「おいしゅうございました」「生き地獄」「宝石箱やぁ」「猫鼠星人が筑波山麓の巨大なパラボナアンテナから俺に命令するから反逆する」「また、いつか」「我輩は死ぬ。死んでこの太平を得る。太平は死なねば得られぬ」「幸せでした」「先立つため、介護できなくてごめんね(笑)」「あの世で永遠に一緒になります」「あなたのせいよ。一生怨んでやる」「さよなら。さよなら。さよなら」「俺じゃねえよ」「今やらなければ、僕は僕ではなくなってしまう。ただそれだけのこと」遺書から逆算される人生を生きたかった、と願うことの不幸を感じる。
作品名:アバンチュール×フリーマーケット ~帰省からの変奏 作家名:みやこたまち