私の進む道
瞼を開けているのに進むべき道はまだ見えない。
潮水に膝までつかり体がどんどん冷えてくる。
足元はぬかるみなかなか前へ進めず、空を見上げれば
木々の隙間から覗く青い月が、雲に隠れて不気味に笑う。
静寂と霧のカーテンの中で、ここはどこなのか自分が誰なのか、
確かめることもできずに黒い雲の流れの中で耳を澄ます。
「うぁ~~~っ」
女性のうめき声が聞こえた。
どこ?
こんな場所では自分以外の生き物が存在するということ自体が恐怖だ。
声がした方を向き、じっと目を凝らすと、
現れたのは全身ずぶぬれで泥だらけの女性だった。
顔面蒼白で唇は土色をしていて、何度も倒れそうになりながらも
どこかに向かって一心不乱に必死で進もうとしていた。
「どうしたんですか!?」
私の意識がはっきりしてきた。
「助けてください……子供が……子供が……」
やっと絞り出したような声で遠くを指さし
「子供が一人で待っているんです…助けてください」
「どこですか!? 私が行きます! どこですか!? しっかり!」
自分が助けなければならないと思った私は、
自分自身に言い聞かせるように叫んでいた。
「この先をずっとまっすぐ行って、大きな桜の木に冷蔵庫が引っかかっています、
その上に子供を座らせて来ました、ひとりぼっちで……」
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悪魔は親子を飲みこんだ。
子供2人と共に流され、周りに頼れる者はだれ一人生きていない。
「ママ~怖いよ~」
弟は泣きじゃくる。
このままここに居たら3人で死ぬしかない。
「僕、ここで待ってるから、先にヤス君を助けてあげて!」
「僕は、お兄ちゃんだから大丈夫! 僕はお兄ちゃんだから!」
安全な場所に行きたいが、子供二人を水の中抱きかかえて
歩き続ける体力はない。
母親は仕方なく、先に弟の方を安全な場所に連れて行くことにした。
「お兄ちゃん、この冷蔵庫の上に座って! 動いちゃだめよ、
すぐに迎えに来るからね、必ず戻って来るからね」
母親は泣きながら地獄の中を前へ前へ進んだ。
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神様は私を導いた。
黒い雲の切れ間から青い月が顔をだし、霧のカーテンが開き
進むべき道が現れた。
導かれるままに、ただひたすら進む。
考えるべきことはただ一つ。
やるべきことはただ一つ。
迷い込んだのは誰の悪夢か、それとも現実?
あぁ、自分自身か。
(私の進む道/END)ND)