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愛を抱いて 31

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「そう…。」
私は素っ気なく答えた。
「鉄兵ちゃん、勉強中かい? 
邪魔しちゃ悪いかな…。」
ヒロシはウィスキーのボトルを抱いたまま云った。
「いや、もう止めてしまおうと思ってたとこさ。
どの道、今夜勉強しようがすまいが、明日の試験の出来に影響はない…。」
そう云って、私は教科書を部屋の隅に投げ出した。

 「全く、酷い話だ。
フー子も、もう三栄荘には来ないって云い出してんだぜ。」
柳沢は紅い顔をして、吐き捨てる様に云った。
「洗濯機も俺達が払った金額を渡すから、買い取らせて欲しいってさ。」
「やっぱ、久保田に遠慮してるのかな…?」
2杯目が少なくなった私のグラスに酒を注いでくれながら、ヒロシが云った。
「いいや、あの口調は、もう俺達には飽きてしまったって感じだったぜ。」
「ヒロ子やノブは、どう云ってる?」
私は訊いた。
「逢ってないから解らないけど、ノブは駄目だろう。
完全に久保田の息がかかってるもの。
ヒロ子も他の女がみんな、そっぽを向いてるのに、1人で来てくれるとは考え難いな…。」
「いよいよ中野ファミリーも崩壊か…。
随分あっけなかったな。」
「…俺、ヒロ子とノブに逢って、説得してみるよ。
今度は彼女等にメインになってもらえばいい。
二人が来れば、世樹子も首を縦に振るだろう。」
私は云った。
「鉄兵ちゃん、世樹子とはもう個人的に付き合った方が良いよ。
ファミリーとは別にさ。」
「そうだな…、その方が良い。
何と云っても今度の事では、世樹子が一番可哀相だものな。」
柳沢が云った。
「いや、そうは行かない。
行かせてなるもんか…。
だいたい、香織1人のせいでファミリーを解散するなんて、俺は絶対に許さないよ。
必ず阻止して見せる。」
私は、そうは云ったが、ヒロ子とノブを口説く自信が、それ程あるわけではなかった。
寧ろ世樹子のためには、ファミリーを解散した方が良いと思っていた。

 柳沢もヒロシも最後には、「中野ファミリーは諦めよう。」と、そう云った。
手料理を諦めれば済む事だ、という風に話はまとまった。
私は解散式を行う事を提案した。
そこで彼女達に、どうしても一泡吹かせてやりたいと云った。
柳沢とヒロシは「来てくれるだろうか?」と、首を傾げた。
私は、責任を持って彼女等全員を集める、と云った。
日時は次の日曜の夜と決まった。
一年を締めくくるには格好のパーティーだと、柳沢は云った。

 「今更謝っても、仕方のない事だが…、済まないと思ってるんだ。
俺1人の個人プレーのせいで、折角ここまで盛り上がったチームを潰してしまって…。」
私は静かに云った。
「何だい、急に…。」
柳沢は云った。
「誰もそんな事、思っちゃいないさ。
潰れてしまったのは、寧ろ俺達の力が足らなかったせいだよ。
だいたい、このファミリーは、鉄兵1人の力で成り立った様なものだ。
俺達も、もっとパワーを出せていれば良かったんだ。
俺達にも、お前ぐらいのパワーがあれば、きっとこんな事にはならなかったはずさ。」
「そうだよ。
鉄兵ちゃんがいなかったら、中野ファミリーは存在してなかったよ。
本当、鉄兵ちゃんは凄いよ。
俺もできれば、鉄兵ちゃんの様になりたい。
鉄兵ちゃんは、俺の目標だ…。
ずっと手の届かない女だと思ってた世樹子だって、鉄兵ちゃんはいとも簡単に、好きにさせてしまうんだもの…。
いつかきっと、俺も鉄兵ちゃんの様になりたいんだよ。」
「おいおい、ちょっと待てよ。
気を使ってくれてるのは解るけど…、俺はただ、運が良かったに過ぎないさ。
女にフラれた事なんて星の数程あるぜ、俺は。
中野へ来てからは、ツいてただけなんだ。
それに、フー子はお前等二人のどちらかに惚れてると、俺はずっと睨んでんだぜ。」
「いや、フー子もお前に惚れてるよ…。」
柳沢は云った。
「フー子も鉄兵の事が好きなんだよ、きっと…。
ただ、彼女は香織や世樹子と違って、今立っている処から翔ぶ事が、なかなかできない性格なのさ。
俺には解るんだ、何となく…。
フー子は結構気が強そうに見えるけど、実は三人の中で一番臆病なんだと、俺は思う…。」

 その年の冬は割合に暖かだった。
12月の半ばを過ぎても、冷え込む日は少なく、過ごしやすい日々が続いた。
しかし、中野の空には、依然暗雲が立ち込めたままであった。
私は、世樹子をあの様な行動に駆り立てた、その本当の理由を突き止めなければ、ならなかった。
私の知らない処で、何かが起こってしまったのだと、私は考えていた。
その事はもう、間違いなかった。

 そして、解散式の日、12月20日はやって来た。
結局、集まったのは、フー子と世樹子と香織の3人だけであった。
外が薄暗くなった頃、ヒロシを私の部屋に残して、柳沢と2人で酒の買い出しに行き、再び部屋へ戻った時には、女達は既にやって来ていた。

 「それにしても解散パーティーだなんて、あなた達って最後まで、宴会の名目をよく考えるわね。
ほんと陽気って云うか、めでたいって云うか…。」
皆のグラスに氷が入れられている時、香織は云った。
「ただ、けじめをつけたいだけさ。
ところで、今夜は差し入れの摘みが、どこにも見当たらない様だが…、どこに隠してるの?」
柳沢はボトルのキャップを開いて、グラスに酒を注ぎながら、部屋を見回した。
「まさか…。」
「私達が何か作って来るのを、あてにしてたわけ?」
「いや…、何もないの…?」
「本当、最後までめでたい人達ね…。」
「俺、行って、すぐ買って来るよ。」
そう云うなり、ヒロシは部屋を駆け出て行った。

 「そうか…、最後の手料理の期待も、水泡に帰したか…。」
柳沢は呟く様に云った。
「結局、私達って手料理だけが目的で、ここへ呼ばれてたのね。」
「それは違う。」
「いいのよ…。
そのぐらいの価値しかない、その程度の女と見られてたって事よ…。」
「当たり前だろ。
他に何かあるとでも、思ってたのかい? 
君等はただの、飯炊き女さ。」
突然、私は云い放った。
女達は、一瞬動作を止めた。
柳沢も、愕いた様に私を振り返った。
私の表情から、皆は私の言葉が冗談ではない事を、読み取ったはずだった。
パーティーは乾杯の前から、荒れ模様となった。
「そう…、まあ最後に良い事を聴いたわ…。」
香織が云った。
「酷いわ、鉄兵。
どういうつもりよ。」
フー子は怒りを、あらわにして云った。
「冗談にしても、酷過ぎるわ。
私、許せなくてよ。
今の言葉、取り消してよ。」
「この人は、冗談も本気で云う人よ。
取り消す必要はないわ。
大方、最後に精一杯の厭味を云ってみたか、それとも最後だから本音が出たって処でしょう。」
そこへヒロシが戻って来た。
「あれ、俺のために乾杯待っててくれたの? 
先にやってくれてて、良かったのに。」
買い込んだ菓子や摘みを並べながら、ヒロシは云った。
「そうさ、お前を待ってやってたんだ。
早く座れ。」
柳沢が云った。


                           〈六三、鉄兵の様に〉


     【次章、最終回!】


作品名:愛を抱いて 31 作家名:ゆうとの