雪になりゆく
私は今、雪が降りしきる中を、そんなことを思い出しながら歩いていた。すっかり書類でいっぱいになった鞄を小脇に抱えて、他のサラリーマンの中に混じり、帰路を急ぐ。
やがて、人通りの全くない道に出た。ふと顔を上げた先に、彼女の姿があった。
記憶の中にあるのと寸分違わない彼女は、私に気づいて静かに微笑んだ。勢い良く降りしきる雪が視界を埋めて、あの頃よりも更に白く消え入りそうな彼女を、かき消してしまいそうだ。
私はこみ上げてきた懐かしさと恋慕の情に駆られ、数メートル向こうの彼女めがけて歩み寄った。その瞬間、視界が反転し、スーツの襟元から直接肌に触れた雪の冷たさに縮み上がった。足をとられたのだ。彼女の話を思い出し、私も今、まさにそれと同じ状況に立たされているのだということを、何よりも先に理解した。体の半分以上が、道の脇にできた雪山に埋もれているようだ。自分の体勢がどうなっているのかも分からないほど、目の前には雪の白さしかない。むき出しの手指が痺れた。寒い、という思考が、徐々に薄れていく。
やがて意識を手放そうというその時に、私は彼女の冷たい息吹を感じた。