置いてけぼりの夏
やっぱり妹としか見れない、ということだったらしい。ちょっとわかってはいたんだけどね、と、芽衣はさびしそうに言う。そのあとに、実は、という感じで、尋人はあの日のことを妹に話したのだそうだ。わたしの態度がとつぜん変わったことに違和感をおぼえて女の子たちを問いつめたことで、わたしがいじめられていることも知っていたのだという。そして、今年の花火大会の席をひとつとってあることも、わたしに会えたら誘うつもりでいることも。
展開があまりに急すぎて、自分の気持ちがまったく追いついてこない。ひとりでしずかに考える時間をくれと、見えない誰かに向かってさけびたい気分だ。
「ねえ、お姉ちゃん」
妹が、心なしかうるんだ目をこちらに向ける。こんなにかわいい子をふるなんて、あいつは何を考えているのだろう。
「今はちがうかもしれないけどさ。あのころのお姉ちゃん、ひろ兄ちゃんのこと、好きだったんだよね」
たしかに、友人としてはまちがいなく好きだったと思う。けれど、それが恋愛感情だったかまではわからない。人ごみの中で乱暴に手をつかまれたとき、心臓が苦しいほどどきどきいっていた気がするけれど、今だからそうだったように感じるだけかもしれない。あれが恋でなかったとすれば、わたしはまだ一度も恋をしたことがないということになるので、たしかめようがないのだ。週末、あいつともう一度花火大会に行けば、わかるのだろうか。いやいや、そんなことができるはずがない。
うんうんうなるだけのわたしを見て、妹がおかしそうに笑う。とりあえず、彼女の言うとおりにしてみればいいのだろうか。そうすれば何かが変わるかもしれないし、何も変わらないかもしれないけれど。ひとつだけ、妹を通じて受け取ったあいつの気持ちが、わたしにとってとても喜ばしい種類のものだということだけは、たしかなのだから。