オオカミ少年
少女がそんなことないと言うと、少年は安心したように笑いました。少女が人を呼んでくると言うと、少年はかぶりをふりました。
「ねえ、となりにいてよ。一人でいるのはいやなんだ。一人でいるぼくは、だいきらいだ。二人でいるときがすきなんだ」
それを聞くと、少女は少年のとなりに腰かけました。それから二人でいろんなことを話しました。学校で校長先生のカツラが風で飛ばされた話、となりのお姉さんの新しいボーイフレンドの話、授業で習ったお星さまの話。面白い話も、つまらない話も、少年はおもしろそうに聞いてくれました。けれども笑い声がだんだんと小さくなって、そのうちなんにも言わなくなって、少年はねむるように死んでしまいました。少年の最後の顔は笑っていました。
「あのホラ吹き少年、本当にオオカミに食われて死んじまったんだとさ」
「うそばかりついてたから呼んでも誰も来なかったってよ」
「うそつきは報いを受けるってこった。天罰だな」
少年がオオカミにおそわれて死んだと聞いて、村人たちはそれぞれ好き勝手にうわさ話をしました。少女にはそれががまんなりませんでした。
「うそつきって、そんなにいけないの。うそつかない人って、そんなにえらいの。あの子はね、優しい子だったんだから!」
少女はこう叫んで怒りましたが、誰も聞く耳を持ちませんでした。
「それでも、あたしだけは知ってるんだから。わかってるんだから」
やがてその少年の話は「オオカミ少年」と呼ばれて、この村の昔話として伝わっていきました。もっともその昔話はうそっぱちで、その中での少年はただのうそつきで、いつもオオカミが来たとうそをついては村人をからかって、最後には一人も信じてくれる人がいなくなったという話です。これはうそつきはきらわれると言って、子どもたちに言い聞かすために大人たちが話をねじ曲げたものです。大人はいつも自分たちの都合のいいように物事を言います。けれどもその少女だけはその少年の優しい笑顔を忘れることはありませんでした。
どうしてそれがわかるかって?そうね、わたしにもよく似た友人がいたからかな。それじゃあこれで、今日の話はおしまい。オオカミ少年の話はこっちが本当だから、みんなはちゃんと覚えておいてね。オオカミ少年の本当の話を知ってるのはあのときの少女とみんなだけなんだから。
そう語り部のおばあちゃんに言って聞かされると、昔話を聞いていた村の子どもたちはみんな帰っていきました。この村では村中の子どもが集まって週に一回、昔話を聞くのを楽しみにしています。これは数年前に一人のおばあちゃんの呼びかけではじまりました。語り部のおばあちゃんは村中の子どもを引っ張って、いやだと言う子もむりやり引っ張りだして、いろんな昔話を聞かせました。おかげで村には一人ぼっちの子がすっかりいなくなりました。なんせ一人ぼっちの子がいたら語り部のおばあちゃんはこう言って、その子を連れてきてしまうんですから。
「一人でいるのはさみしいよ。二人のほうがずっといいよ」
優しく笑って、おばあちゃんはそう言うのです。