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終わらないうた

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暗い海の底深くから


 暗く冷たい水の中
 深く深く 沈んでゆく
 落ちてゆく 一人で
 どん底までいったら
 後は這い上がるだけって
 誰かが言ったから
 深く 深く
 暗い海底まで
 沈んで 沈んで
 沈んでゆく 一人

 なのに いつまでたっても
 底なんか見えやしない
 このまま 落ち続けるのか 永遠に
 ここからじゃ 這い上がっていけないんだよ もう
 泳ぎ方さえ 忘れてしまった
 がむしゃらにもがいてみるも疲れが残るだけ
 もう暗くて どこへ向かってゆけばいいのかさえ わからない

 呪われた海 呪う海

 深く沈んでゆく 一人で 誰にも見えないように
 沈みながら 本当は誰かの手を待ってる
 この手をひいて海面目指して浮かんでいって
 誰か…


 突然触れた 暖かい 手
 ぎゅっとつかんでくる手を
 戸惑いながら 握りかえした
 伝わるぬくもり 浮き上がるからだ
 ゆっくり 浮き上がる どんどん早く
 鮮やかな魚の群れ煌めいて揺れて
 夢のように 二人 ずっと このまま
 光目差して 浮かんでゆこう 二人で
 ずっとずっと このまま

 突然やってきた
 黒い激流
 恐怖 焦り  
 胸を打つ心臓 必死にしがみつく
 絶対離れない
 強く掴んで 絡まる手足見えない顔
 強く強くしがみつくもつれ合う二人
 絡まり合って激しく揺れ
 もがきながら沈んでゆく
 振り払う手 目に刺さる
 漂う 暗い海 一人

 抜け殻になって漂う
 目を閉じ また 沈んでゆくのか
 あの 暗く 冷たい 底深くまで

 やっぱり 恐ろしい海

 痺れる手足 冷たく突き刺さる痛み
 このまま一人暗闇に沈んで消えてゆくんだ
 もう何もすることなく
 もうこの体を動かすこともなく
 僕はもう暗く深い海の底に消えてゆく
 ふいに 瞼の裏に笑顔が浮かんだ
 微かな記憶
 するりと通り過ぎていった いくつものささやかな笑顔
 わずかに見てするりと通り過ぎてしまった笑顔たち
 あの優しい笑顔たちに何をしてあげたろうか
 何かしてあげたろうか 
 こんなとこで 一人どうせ消えゆくのなら
 この体で何かしてあげたら良かったのに
 動けなくなる前に もっと強く意味を感じるべきだった
 今になって気付く
 そうしたら
 こんな海深く沈むこともなかったはず
 ただ ただ
 自分のことだけを考え 沈んできた暗い海

 ああ
 あの明るく優しい笑顔たちに無性に会いたい
 ただすれ違いかけられた微笑みにさえ
 すごくすごく会いたい
 会ってありがとうと言いたい
 もう一度会えたなら精一杯限りを尽くして愛すから
 この体をその笑顔のために捧ぐから
 きっとそこには 作れなかった何かが生まれて 一緒に笑い合える

 海の中で わからないけど
 きっと今泣いてる
 目から涙がどんどん溢れてる
 胸は熱く 切ない
 海は相変わらず冷たいはずなのに体はこんなにも暖かく優しく包まれている
 ありがとう
 ありがとう

 暗い海の底深く一人
 幸せに満ちた

 ゆっくり目を開くと黒い景色の中に
 幾つもの碧の電光
 光放つ小魚の群れ
 生まれたての無邪気な命たち
 ちろちろと揺れ綺麗

 突然のどよめき
 慌てふためく小魚達
 卑しい顔の大魚が凄い速さでやってきて
 大きな口開けて小魚たちを一気に飲み込んでゆく
 咄嗟に腕で大きく水掻き分けて泳いだ
 小魚に向かい必死に泳いだ
 そばにある小さな命の光を両手でそっと優しく包み込む

 大丈夫だよ
 安心して
 ここにいれば大丈夫だよ
 ほら 大魚はいってしまったよ

 腕を掲げて両手をそっと開くと
 ふうわりと広がりだす命
 真っ黒な海にともる光
 まるで黒い空に揺れて輝く星々のようにちらちら
 煌めく星々目指して大きく水を掻き分けて泳いだ

 光の粒の間をすり抜けて
 暗闇何も見えずそのまま突き進む
 自ら浮かび上がる感覚
 思い出し思い出し

 もう絶対に海底には行かない
 泳いで泳いで
 ふと見えた微かな光の揺らめき

 ああ はぐれたところからあともう少しだったんだ
 あの時 消して手だけは離さない 
 それだけを思ってたけど間違っていた
 大事なのは自分の手足で泳ぐこと
 二人共に泳ぐことだった

 泳ぐ 憧れの光にむかって
 海面遠く不安になるも確実にゆっくり進んでる
 泳いで泳いで徐々に広がる眩い光
 ふいにそっと触れる手
 右から 左から背中から触れて
 幾つもの手が共に泳ぎながら支え合うようにそっと優しく 暖かく

 遂に海面を越え
 空気に触れた
 そこには確かに明るい景色が広がっていた
 遥か遠くに陸が見える
 あそこまで泳がないといけない
 陸の上をさらに歩いていかなくては行けないんだ
 当たり前のことに気付き気が遠くなるけれど
 強く 誓う
 もう決してあの暗い海に沈んだりはしない
 だって

 真上には光輝いている太陽がある!

 抜け出せない黒い海に世界は全て暗く呪われているように見えたけど
 確かに輝く太陽はあった
 陸にようやく辿り着いて
 一歩 ひたりと 歩き出す
 海の底深くから生命が生まれた
 人類はなんのために歩いてゆくのかなんてことわかるはずもないけれど
 どう歩くのかは わかってる
 どう歩いてゆきたいかはもうわかってる

 暖かさを胸に抱いて
 歩くだけ
 笑顔で
作品名:終わらないうた 作家名:BhakticKarna