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愛を奏でる砂漠の楽園 04

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 自分が原因であるという事を今まで全く想像していなかった。否、自分を陵辱した男達の会話から、自分が原因で家族同然の者達が殺される事となったのだという事など察していた。自分が原因であるのだという事を認める事が今まで出来なかっただけである。
 やはり自分は、皆が言っていたように不幸を運ぶ存在であるのかもしれない。自分がいなければ、一座の者達は殺される事にはならなかったのだから。
 頭の中をそんな考えに埋め尽くされているユスフは、シナンの声を言葉としてでは無く声としてしか捉える事が出来ない。
「お前の仲間が殺されたのは、お前のせいでは無い! お前の仲間が殺されたのは、術師という名のペテン師の言葉に上手く乗せられた愚かなこの男が原因なのだ。お前のせいである筈が無い」
「口喧しいぞ、シナン! お前がシナンなどと姦通したから、私は王位を失う事になどなってしまったのだ、ユスフ!」
「まだそんな寝ぼけた事を言っているのか。あのペテン師の姿が見えなくなっているでは無いか。大方、お前の状況が不利であると分かった途端、姿を消したのだろ?」
「黙れ! 五月蠅いぞ! 私は一人でなど地獄には堕ちん。こいつもお前も道連れにしてくれるわ!」
 喉へと触れている剣が横へと動こうとしているのを感じ、ユスフは漸く我へと返る。
 このままでは死ぬ事となってしまう。こんな所でシナンと別れるような事などしたく無い。しかし不幸を運ぶ存在である自分が傍に居れば、シナンも不幸になってしまうかもしれない。
 様々な感情が入り交じり、どうすれば良いのかという事が分からなくなっていた時、大きな物音と共に宮殿全体が揺れ動く。
「な、何だ?」
 動揺した声色でそう零しながら、音と振動の中心である天井を王が見上げる事によって、喉へと触れていた剣が離れる。だが王と同様に予期せぬ出来事に驚いていたユスフは、その事へと全く気が付く事ができなかった。
 一体何が起きたというのだろうか?
 まるで大砲によって外から攻撃されているようである。
 しかしそんな事がある筈など無い。シナンがここへと居る事が分かっていながら、シナンの味方が宮殿を攻撃する筈など無いからだ。
 そう思いながら天井を見上げていると、両手を拘束している麻縄が持ち手部分から離れる。
 唐突な出来事に驚いている暇無く、まだ拘束された状態となったままの腕をどこからとも無く現れた手に掴まれ、体が横へと引き寄せられる。体を捩る事によって、シナンがいつの間にか玉座の前まで来ていたのだという事をユスフは知った。
「何時の間に!」
 シナンの存在へと漸く気が付いた王が、手にしたままとなっている剣を振り上げる。そんな剣がシナンへと向かって振り下ろされる前に、既に振り上げていた剣をシナンが王へと向かって下ろした。
「ぐふぁああああ――ッ!」
「王!」
 王の叫び声と部屋の中に居る兵士の声が重なった。
 ユスフと同様に唐突な出来事へと驚いていた兵士達が、状況を把握しこちらへとやって来る。
 兵士の数はざっと見積もっただけでも二十人近く居る。シナンが武術に秀でている事は、先程の剣の扱いを見る事によって分かっていたが、それでもこんなにも大勢の兵士を、足手纏いとなる自分を連れて一人で倒す事ができるとは思えない。
「私を置いて行って下さい。シナン様一人ならば」
「煩い!」
 一喝され口を噤むと、両手を拘束している麻縄の中心へと剣を突き立てられる。そのままシナンが剣を動かす事によって、手から麻縄が離れた。
 麻縄で拘束されたままとなっていた手首には、くっきりと縄の跡が残っていたが、そんな事を気にしている余裕は無かった。ただ無理な体勢で拘束されたままとなっていた為、無くなっていた手首の感覚を取り戻そうとユスフが軽く手を振ろうとした時、再び大きな音と共に宮殿が揺れ動く。
「うわぁッ!」
「一体何なんだ?」
 部屋の中に居る兵士達と同じように大きな揺れへと動揺していると、自由になった手をシナンに掴まれる。
 シナンがこの場を離れようとしているのだという事を感じ取ったユスフは、まだ混乱した状態へとなってはいたが、入り口へと向かって走り出した。
「うぅ……逃が……、すな……」
 深傷を負っている状態で更にあれだけの傷を負ったというのに、王はまだ生きていたようだ。
 息も絶え絶えとなっている王の言葉を聞き、入口へと向かっているシナンとユスフへと兵士達が襲いかかって来た。
「邪魔をするなら容赦はしないぞ」
「うあぁああっ!」
 ユスフが剣を降り下ろす事によって、鮮血が飛び散り部屋の中へと絶叫が児玉する。
 戦場へと出た経験の無いユスフにとって、目の前で起きている出来事は、思考が停止してしまいそうな程に恐ろしいものであった。それでも、シナンから離れてしまわないように手を強く握りしめ、足が縺れてしまわないように必死でシナンの後を追った。
 入り口迄の距離は、既に後僅かとなっている。兵士達が予期せぬ出来事に驚いている間に、ユスフとシナンは既に入口近く迄来ていたのだ。
「ぐふっ!」
「時間が無い急ぐぞ」
 目の前にいる兵士を倒しシナンがそう言って部屋の外へと出た事により、手を繋いだままとなっているユスフも廊下へと出た。
 部屋の外にも兵士の姿があるのだと思っていたのだが、暗闇に染まった廊下には兵士の姿は全く無かった。その代わり、宮殿のあちらこちらから叫び声が聞こえて来る。
「火が!」
「逃げろ!」
 宮殿の中で一体何が起きているのかという事を、聞こえて来る声と鼻先を微かに掠めている何かが焼けるような匂いから、ユスフは直ぐに察する事が出来た。
 宮殿に火が放たれたのだ。
 自分達がまだここへと居るというのに、味方が宮殿へと火を付けた事に対して、前を走るシナンは全く動揺していなかった。先程の予期せぬ出来事にも動揺していなかった事から、シナンがこれらの出来事が起きる事を最初から知っていたのだという事をユスフは察した。
 ただひたすら前を走るシナンを追う事によって、兵士の姿が見えなくなるだけで無く、宮殿の奥にある後宮の中へと入った。
 煌びやかな衣装に身を包んだ側室達の姿が消え去っている後宮の中を進む事によって、ユスフはシナンがどうやって宮殿の外へと出ようとしているのかという事を推し量る事ができた。
 以前町へと抜け出すのに使った、後宮の図書室にある王さえも知らない抜け道から外へと出ようとしているのだ。
「思っていたよりも火の回りが早いな。急ぐぞ」
 後宮の中を進みながらシナンが渋い声で呟いた。
 先程から徐々に火の手が広がっていたのだが、後宮の奥へと入った今、火の勢いが強くなり辺りは完全に炎へと包まれた状態へとなっていた。
 後宮の中を包んでいる煙を吸い込む事によって息が苦しくなるだけで無く、視界が不鮮明な状態へとなっていく。
 苦しさに耐えかね手で口元を押さえたユスフは、シナンの姿を見失わないようにして走るのが精一杯であった。それはシナンも同じなのだろう。先程までよりも歩みが不確かで遅いものへとなっている。
 後少しで抜け道のある図書室へと到着する。