小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~(完結編)

INDEX|14ページ/14ページ|

前のページ
 

 いつしか忠実な秘書の姿はどこかへ消えている。気を利かせたに違いなかった。
「無事だったのね。私、ホントに心配したのよ。死んじゃったんじゃないかと思って」
 拓人が優しい笑みを浮かべた。
「馬鹿だな。俺がお前を置いて、一人で死ぬわけないだろうが」
 拓人は愛奈を抱きしめ、耳許で囁いた。
「迎えにきてくれて、嬉しいよ。それに、お前が泣くほど俺のことを心配してくれたのも」
「泣いてなんかないもん」
 愛奈が持ち前の負けん気ぶりを発揮すると、拓人はまた笑った。
「まあ、お前がそう言うのなら、それでも良いさ」
 彼がポロシャツの胸ポケットから小さな箱を取り出した。
「これをお前に」
 黒色の小さな箱にピンクのリボンが付いている。愛奈は渡されたそれを静かに開けた。
「あ―」
 箱の中から現れたのはベージュ色をした薔薇の形の石だった。そっと指で持ち上げてみると、石にワイヤーが巻きつけられていて、ネックレス仕様になっている。
「綺麗」
 愛奈は眼を輝かせた。
「これはデザートローズといって、砂漠でしか取れない珍しい石なんだ。普通、プロポーズするときはダイヤモンドだろうけど、これもあまりに定番すぎるだろ。だから、これを婚約指輪の代わりとして贈るよ。俺の嫁さんになってくれ、愛奈」
「この石を買うために拓人さんは事故に遭うところだったのね」
 愛奈がしみじみと言うと、拓人が眉を寄せた。
「何でお前がそれを知ってるんだ?」
「瀬道さんに聞いたの」
「あいつ、お喋りなヤツだな」
 拓人はぼやいたが、口調ほど怒っている様子はなく、むしろ面白そうな表情である。
「ありがとう、歓んで頂きます」
 愛奈の言葉に、拓人が息を呑んだ。綺麗な顔には?信じられない?と書いてある。
 愛奈は微笑んだ。
「でも、これからは無茶はしないでね。私は宝石も何も要らない。拓人さんさえ側にいてくれれば、それで良いの」
「おい、愛奈。俺は今、夢を見ているのか?」
 拓人はまだ夢見心地のような顔をしている。
「俺はお前に対して酷いことばかりした。そんな俺をお前は嫌っていたはずなのに」
「もう一度、最初から始めましょう。今、この場所から」
 愛奈は拓人の眼を見つめながら言った。もうこの男の傍以外に私の居場所はない。想いを込めた瞳の中に愛奈の固い決意を見たのか、拓人が頷いた。
「そうだな。俺はお前を手に入れたいと焦るあまり、やり方や順番を間違っていた。もう一度、俺にチャンスをくれ。俺には一生、愛愛奈だけだ。この世の誰よりも幸せにするよ」
 拓人は愛奈から砂漠の薔薇(デザートローズ)を受け取る。彼女が解き流した長い髪をかき分け、細いうなじを差し出すと、そっとネックレスをかけた。制服の胸許に純白の薔薇が今、たおやかに花ひらいた。

☆☆

 その夜。
 マンションの寝室で拓人と愛奈は十日ぶりに身体を重ねた。
「ありがとう、俺にもう一度、幸せになれるチャンスを与えてくれて」
 拓人が愛奈の身体中にキスの雨を降らせる。二人ともすべてを脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿だ。
 涼子のことについて訊ねた時、拓人は彼に応えられる限り、誠実に向き合って応えてくれた。愛奈の想像どおり、拓人は確かに二年間、涼子と愛人関係にあった。が、拓人の心には常に愛奈の存在があり、彼は愛奈との結婚を決意したのを契機に涼子に別れ話を切り出した。
 そのため、嫉妬に狂い拓人を失うまいとした涼子が一方的に愛奈に嫌がらせを仕掛けてきたのだ。
 その後、拓人は涼子に以前に提示した手切れ金代わりの慰謝料に更に上乗せした金額を進呈しようとしたが、涼子は
―馬鹿にしないで。ここまでして別れようとする男に追いすがるほど、未練がましくも男に飢えてもいないわ。
 と、それらをすべて突き返してきたという。
 いかにもあの女らしい啖呵の切り方だと、話を聞いた愛奈は納得できた。恐らく涼子は涼子で、拓人に本気だったに違いない。拓人という男を間に挟んでの出逢いでなければ、あの涼子という女とは歳は違っても良い友達になれただろうのにと少し残念だ。
 拓人が愛奈に覆い被さっている。彼の腕が彼女の顔のすぐ側にあり、彼女は逞しい腕に閉じ込められた形だ。だが、互いの想いを確かめ合った今、この男の腕に閉じ込められるのはけして嫌ではない。
 囚われた小鳥は籠から飛び立つのではなく、自ら籠を自分の生きる世界だと定めたのだ。けれど、拓人はもう二度と愛奈を狭い鳥籠に閉じ込めようとはしないだろう。愛奈は何故か、そんな確信があった。
 拓人の唇が静かに降りてくる。自ら腕を伸ばして彼を引き寄せ、そのしっとりとした感触を受け止めながら、その夜、愛奈は世界中でいちばん幸福な花嫁となった。
                 (了)

    
 







ヒナゲシ
 花言葉―恋の予感、未来の恋。別名、虞美人草、ポピー。 
     

デザートローズ
 宝石言葉―愛と知性。
 不必要な人との縁を切る、寛容さと深い愛情を育む。深い愛情を持って人と接することを可能にしてくれるパワーストーン。
 砂漠の砂の中から見つかる薔薇の花に似て美しい鉱物。別名をサンドローズともいう。花びら状の形が薔薇に似ていることからこのように呼ばれている。
 自分に本当に必要な人を見極め、その人との縁を取り持ってくれると共に、逆に不要な縁、害をもたらす人との縁は後腐れないように断ち切ってくれる効果あり。