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そんなこと 言われたって

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あぶら蝉が
行ってしまい
つくつくぼーしが
後を追いかける

そんな夏の終わり
わたしは逃げた
こわくて
逃げた

もう
死ぬかと思うほど
母さんは
産院で苦しんだ

予定日は過ぎたのに
とっくに
過ぎたのに
しがみついて
出てこないキミ

夕方
わたしが戻ったとき
キミは産湯の
中に居た

こみ上げる嬉しさ
逃げた情けなさ
妻への後ろめたさ
いろんな感情が
交錯する

大きな目
少し下がった目じり
小さな口
キミはそっくり
母さんにそっくり

わたしを馬にして
騎手は背中で
突っ伏して
眠ってしまったキミ

すぐに妹が出来て
赤ん坊のまま
お姉ちゃんになって
母さんを取られたキミ

けれどキミが
妹と喧嘩したこと
見たことなかった
仲が良かった

父がしてくれなかった
母が出来なかった
わたしを
抱きしめてくれなかった分

わたしはキミを
母さんと共に
抱きしめて
暮らした


ある日キミは
結婚するって
言い出した

以前から
付き合っている
人がいるって
しってはいた

彼が外国人だって
知ってはいた

母さんは反対だった
あなた
何とかしてよ
そう言ってた

わたしは
家には
外国人が
沢山来たから

慣れてるから
大丈夫
きっと
友達だから
そう言った

母さんの不安は
的中した
やっぱり
結婚するって
キミは言ったね

わたしは反対した
日本に来ている
イスラム教徒と
結婚すると言う
キミの言葉に

わたしは
無辜の人々を
テロで殺したイスラムを
憎んでいた

わたしはあのビルに
上ったこともある
あの海と大都市の眺めと
多種多様の人々

三千人もの人が
自分勝手な宗教に
殺されたと
怨んでいた

喧嘩したことないキミに
わたしは激怒した
式にも行かない
縁を切って出て行けって

わたしはキミに
ひどいことを言った

わたしは少し冷静になり
隣の公園に
キミを連れ出した

なぜ外国人だ
なぜイスラムだ

わたしは偏見で
固まっていた

そのことは
わかってはいた
相手がどんな男か
見てもいないのだ


葉が散って
枝ばかりになった
桜の木に囲まれた
団地の公園で

ひとこと
キミは答えた


父さんに
似てたから


わたしは
何も言えなくなった

もう
わたしは
なにも
言えなくなった


母さんには言った
もうどうにもならん
来週来るって
貰いに来るって


その朝
わたしと母さんは
着替えをし
彼が来るのを待った

どんな男が来ても
娘の決断だ
ああまで言うから
確かめるだけだった

娘さんと結婚させて下さい
愛しています
彼はそう言った

真面目そうな彼だった
大人しそうな彼だった

わたしは条件を彼に言った
三つの条件を彼に告げた
彼はそれを誓った


結婚するには
キミが改宗して
イスラム教徒になることが
必要だった

キミと行ったのは
愛知のモスクだった

モスクには
男しか入れない

キミは
ムスリムの
自宅の
一室で

イスラム教に
改宗した

男女を厳しく
分離する宗教ゆえ
男のわたしは
男の信者と
襖越しに祈った

外国人の
信者は
涙を流し
祈った

多分
きみの
改宗の
儀式内容だろう

わたしは彼の言葉がわからない
なんて言ったか
全く分からない

けれど
彼の真剣さは
溢れ出る彼の涙で
わたしの心を揺さぶった

全く知らない
あかの他人が
外国人が
見知らぬ外国人の
キミのために祈る

そんな風に
わたしに見えた

イスラム教徒の
衣装は
イスラムの女性が
無償でキミにくれた

改宗の
費用は
全く
無料だった

寄付金さえ
いらなかった

男の私は
儀式の後から
信者について
モスクに行った

イスラムでなくても
手と足を洗って
モスクに入った

祭壇は無く
ただ
メッカの方角に
礼拝した

立ったり
座ったり
立ったり
座ったり

顔は
いろいろ
人種は
様々

けれどみんな
絨毯の
狭い四角の枠で

祈りを
捧げていた
不思議な
外国だった

人が大勢いて
空気は神聖で
暖かかった

わたしも
溶け込んで
受け入れられている
そんな感じがした

みんなと
一体感が有った
不思議な
空間だった


あの子では無理だから
体がもたないから
日本で暮らすこと

改宗は形だけで
信じなくても
礼拝しなくても
強制しないこと

子供が産まれたら
国籍は本人の
意思に任せること

こんな条件を
彼にだしていた


わたしは
出勤前に
彼に日本語を教え

彼は昼間
小学生の通う塾で
国語を習った

暫くしてから
彼は母国へ帰り
キミを待った

キミは独りで
唯ひとりで
彼のもとでの
結婚式に出かけた

わたしにとって
キミが海外に
一人で行けるなんて
夢にも思っていなかった

愛は
人を
強くする

もう
私達の
手の外にある
そう 思った

いま二人して
家庭を築き
子をもうけ
日本で暮らしている

優しく親切で
親孝行な彼
キミは
自分の目で
自分の道を選択した

わたしは
もう
キミに教えることは
何もない

これからは
キミ達から
わたしが
学ぶ番だ

かわいい孫は
私の祖父母を
思い出させる

母や父の
私に対する願いが
いま
分かった気がする

わたしの
先入感と偏見は
キミ達によって
消えた

キミの結婚は
わたしに必要だったのだ

もし神様があれば感謝する
教えてくれて有難う

そして
わたしは祈る
まだ見ぬ神に

イスラムとキリスト教が
仲好く出来ますように

キミ達の幸せが
これからも
続きますように