ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく )
聞き込みから戻った芹凛、デスクでボーと天井を見詰める百目鬼に「今日も成果なしです」と報告する。
「ああ、ご苦労さん」
百目鬼は一言だけ返す。
この無愛想なレスにムカッときた芹凛、だがその心情を無視して百目鬼が……。
「現場に現金と高価な人形が残されていたな。これらを軸に、社長が公園に出掛けなければならなかった理由、それをもう一度推理してくれないか」
疲れてるのに、追い打ちを掛ける要求、芹凛はこのくそオヤジがと思ったが……、それにしても人形? あらためて考えてみれば可笑しな話しだ。芹凛は今までの思考を整理し直す。そして15分後、「コーヒーでも如何ですか?」と芹凛が訊く。百目鬼はわかってる、芹凛が今までの捜査で判明した事項をシャッフルし、そして新たに繋ぎ合わせ、ストーリーを組み立て終えたのだと。
間もなくマグカップが差し出され、「さっ、話してくれ」と百目鬼が目で合図を飛ばすと、芹凛がとうとうと語り始める。その要点とは……。
桐坂の孫娘、藍月(あいづき)は誘拐された。
まず警察に通報すると孫を殺すぞと脅された。そして犯人の要求は、藍月との引き替えに祖父の桐坂一人で、台風の夜に身代金を持って来いというものだった。桐坂はその指図通り、つまり金と、孫が喜ぶであろう人形を持って公園へと出掛けて行った。
しかし、誘拐は藍月の母、紫月(しづき)の狂言。その深意は暴風雨の中桐坂を一人にさせるため。桐坂はこの罠にまんまと嵌まり、計画通り刺し殺された。
桐坂家の嫁、紫月は御狩場(みかりば)の女一族の娘。血肉(けつにく)に母の朱月(しゅづき)と妹の幽月(ゆうづき)がいる。
目的は女一族による桐坂家の乗っ取り。そのために嫁の紫月が計画し、その母の朱月が孫を預かり、嫁の妹の幽月が桐坂を刺す。このような御狩場の血の結託よる犯行のようだ。
もちろん次に狙われるのは桐坂一郎の息子、すなわち紫月の夫となる。
作品名:ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく ) 作家名:鮎風 遊