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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 急遽この事件に駆り出された百目鬼刑事と部下の芹凛こと芹川凛子刑事は急ぎ現場へと入った。
 そこにはいくつもの大きな水たまりが残り、木は倒れ、フェンスが四五度に傾いている。まさに昨晩いかに風雨が強かったかを物語ってる。

 しかし一方で、この状況を解釈し直すと、血痕も足跡もすべては洗い流されたということになる。そんな状況下で、現場検証を終えた芹凛がブツブツと口を動かす。
「雨風により、犯行の痕跡はすべて消されてしまったわ。それを目論んでのこんな殺(や)り方、そう、裏になにか汚い陰謀が隠されてそうで……、犯人はきっとプロの狩人だわ。凄腕だもの」

 こんな呟きを耳にした百目鬼、「殺人者を賞賛するな!」と窘(たしな)めてはみたが、考えてみれば、芹凛が感ずるところは当たってる気もする。そこで一つ突っ込む。
「大企業の社長はセキュリティの観点で絶対に単独行動しない。だがこのケース、一人で出掛けて行った、しかも台風の夜に。それは――、なぜだ?」

 芹凛は、犯人を凄腕の狩人と主張した以上、答えを持っていた。ここは動じず、「罠ですよ。それが何かはわかりませんが、桐坂は一人でどうしてもこの公園に行く必要があったのです」と言い切った。
 百目鬼はこれに女刑事の鋭い嗅覚を感じたが、まだ核心を突いていない。

「ヨッシャー、桐坂は犯人が仕掛けた罠に嵌められた、そしてここで殺されたとする。ならば、その罠は一体何なのだ? もしこれがわかれば、捜査はぐんと前進するぞ」
「百目鬼刑事、その通りです」
 こうして捜査方針は決まり、二人はとにかくその仮定の下で没頭した。

 しかし、暴風雨の中の殺人事件、目撃者はいない、凶器は見つからない、犯人の足取りはつかめない。まさにないない尽くめ。進展はなく一週間が経過した。