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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 振り返れば、四人は画家になることを夢見て美術大学に入学した。そして知り合った。
 それからは若者同士の世の常、恋が芽生え、大輝と蘭子、伊蔵と秋月のカップルができた。学園での煌めく日々、それはあっと言う間に巡り行き、卒業。当然二つのカップルは結婚へとゴールインするはずだった。

 しかし、会社社長の長男の大輝は親の猛烈な反対に会い、貧しい山村出身の蘭子から町の資産家の娘、秋月に鞍替えしてプロポーズをした。
 秋月は秋月で、農家の二男坊の伊蔵と一緒になったとしても、費用が嵩む日本画は続けられない。そう打算的に考えたのだろう、大輝を選んだ。
 蘭子はこれで大輝から捨てられた。いわゆるどんでん返しが起こってしまったのだ。
 その上に蘭子の実家の陋屋(ろうおく)へ、秋月にふられ自暴自棄となった伊蔵が転がり込んできた。

 貧しさ故に行き場を失った男と女、行き掛かり上夫婦になるしかなかった。それでもいつか絵画の世界で天高く羽ばたこうと二人は精進した。
 されども絵の具も買えない事欠く生活。そんなことから伊蔵は貧困スパイラルに落ち、安酒に溺れた。
「私は大輝の妻になるはずだったのに、なぜこんな男と暮らさなければならないの」
 毎日不満抱く蘭子、さほど絵の具を必要としないボタニカルアートへと転身した。そして悔しさをバネに一筆一筆描き続けた。その甲斐あってかやっと画集が出版でき、また町で教室を持てるようになった。

「さあ、猪肉に雉肉、それと山鳥のつくねもあるわ。自然薯(じねんじょ)と一緒に召し上がれ」
 蘭子の奨めで、三人は好みのものをそれぞれ皿に取る。それを見て取った蘭子、自慢のつくねを「美味しいわよ」と笑みを湛えながら配る。

 確かに、この四人には振り返りたくない過去がある。だが今日はその苦々しさを心の奥底に封印し、ここに参集した。この再会の縁を歓迎するかのように、初夏の青葉が映え、時折吹き来る涼風が心地よい。四人は学生時代へとタイムスリップし、楽しい一時を過ごした。