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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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「芹凛、まず人民裁判の首謀者を見つけ出そう。俺は町で聞き込みをするから」
「じゃ、私、学校を当たってみるわ」
 こんな息の合った会話後、飛び出して行った二人、夕刻に顔を合わせ、まず芹凛が報告する。

「一つわかったのですが、白滝雪菜の担任は女性教師の政所真可(まんどころまか)。独身で、なかなかの美人よ。それにしても、まだ詳細不明ですが、この女教師も白滝と同じように有山からストーカーされてたようです」
 有山のストーカーは金目当て、やっぱり他にも被害者はいたか、と考えを巡らす百目鬼に芹凛が続ける。
「だけど意外なんですよ、少し弱々しく見える政所はカリスマ性があって、指導をしている新聞部では女王様的存在なのです。部員たちは政所に絶対服従で、結束が強いんですよね、しかも異常なやり方で」

 これに耳を傾けていた百目鬼、「どんな異常なんだよ?」と間髪入れずに突っ込む。
 芹凛はこんなリアクションに怯(ひる)むことなく、「団結のために一つまでの嘘は許す。こんな掟を強いてるのよ。これって自己中で、悪だくみがありそうだわ」と眼差しを鋭くする。
「その悪だくみとは?」

 さらなる百目鬼の切り返しに、「部員全員が、あの殺人があった時間、政所先生は私たちと一緒だったと言うのですよ。これって、掟通りで、一つだけ許された嘘ですよね。コンチキショウ!」と、芹凛は怒りで顔を赤らめる。
 一方百目鬼は手を頬に持って行き、伸びた髭を無造作に擦る。
「第一発見者の老人は人民裁判の一員、また5本の矢は5人の執行者を表す。何か見えて来たようだが、町の者や女教師の周りの者は全員嘘を吐くってことか、この事件の解決はちょっと……」といつもの切れがない。
 そしておもむろに、「俺は政所のような女は苦手だ、だから芹凛、お前が落としてくれないか」と弱気。なぜなら、たとえ百目鬼が百戦錬磨であっても、自意識が強過ぎる女教師なんて、どこを攻めれば良いのかわからない。

 ここはやっぱり――毒を以て毒を制す。芹凛に委ねるのが一番だ。