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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 それでも一時間後に、芹凛が熱いコーヒーが入ったマグカップを百目鬼のデスクの上にどんと置いた。こんな無造作な芹凛の仕草、百目鬼にはわかる、芹凛が推理を組み立て終えたのだ、と。そこですかさず話してみろと目配せすると、芹凛は頬を染めて、とうとうと語り出す。

「happysachikoのフォロワーの中に、ダンナと道ならぬ恋に破れた女がいます。もちろん部長夫人はそれに気付いていて、これでもかこれでもかとダンナとの幸せフォトを載せ、当て付けしてたようです。これに失恋女は我慢出来なくなり、月初めにhappysachikoが御来光に願を掛けに行くのを投稿写真で知り、ここぞと犯行に及んだのではないでしょうか。犯人は、happysachikoに最近『Good bye my love in deepest sympathy.』とコメントした女です」

 こう言い切った芹凛が、断崖に立ち、自撮りされた犯人とおぼしき女性の写真を示す。百目鬼はその画面を見て、鬼の目をギョロッと剥いて天に向かって吠えるのだった。

「これは結愛(ゆうあい)という女性、聞き込みから割り出し、行方を追っていたところだ。皮肉なことだが、名は結ぶ愛だが、結愛はそれが成就できず、部長夫人を殺し、今度は自分の身を滅ぼすつもりだよ。残酷なことだが、失恋は……、いや、写真SNSは時に死の連鎖を生むってことか。さっ、芹凛、急がなければ!」