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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 捜査一課の百目鬼学(どうめきがく)、こんな取り調べをマジックミラー越しに耳をそばだて、目を凝らしていた。それにしてもどことなくしっくりこない。しばらく無精髭を擦っていたが、突然カッと目を見開き吠えた。「捜査線上から漏れてるヤツがいる!」と。それから部下の芹凛(せりりん)こと芹川凛子(せりかわりんこ)刑事へと視線を向け、「おい、現場に行くぞ」と声を掛けた。
 このようにして二人が犯行現場を改めて調べ直してみて、まず百目鬼が「この壁、襖一枚と同じじゃないか。隣人は聞きたくもない物音や声を聞かされてたってことか」と指摘する。

 だが芹凛はこの意味がよく理解できず、ポカンとしていると、「芹凛はまだお子ちゃまかい。要は、男と女の営みだよ」と百目鬼からの成人教育。
 その後、眼光鋭く「隣の住人は誰なんだ?」と質問を芹凛に投げ付ける。芹凛はとにもかくにも事件資料を繰り直し、「北本悠斗(きたもとはると)というフリーターです。事件の一ヶ月前に引っ越して、あとはずっと空き部屋です」と報告する。
「北本、結構イラッときてたんだろうなあ」と少しにやけながら漏らしてしまった百目鬼に、今度は芹凛が「たったそれだけで殺しますか?」と反論。

 確かに! もっと深い恨みがあったのだろう。百目鬼はコクリと頷き、「とにかく、北本の身柄を確保しよう」と伝えると、芹凛は手際よく関係部署へと連絡を取るのだった。

 それから一週間が経過した。徐々に北本のことが明らかになってきた。
 北本は有名企業の入社試験を受けた。しかし、壁の向こうで繰り広げられた秘め事のせいで、試験前夜は一睡も出来ずに筆記試験に臨んだ。その上、青ざめたまま面接を受けた。結局、結果は不採用。

 だが北本は意外なことを知った。隣人の女性は北本が入社を目指す会社のスタッフ、そして面接官の部長は、アパートの通路ですれ違ったことがある隣人の情人だった。
 正社員になるために頑張ってきた北本、壁一枚隔てた向こう側で淫靡(いんび)な行為に溺れる部長と女性スタッフに、夢は無残にも破壊されてしまったのだ。

 もう許せない。そして北本は決意した、女には死を、男には人生破滅の裁きを、と。