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いつか『恋』と知る時に

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 シャワーを浴びるだけにして、早々に浴室を出た。壽一が脱いだものはなく、新しい下着とパジャマ代わりの着替えが用意されている。壽一はそれをチラリと見ただけで、身に着けもせずリビングに戻った。スーツとシャツは椅子の背に皺にならないよう掛けられている。雅樹の律義さに壽一の引き結んだ口元の力が緩む。
 寝室に入ると、タオルケットに包まって雅樹が眠っていた。壽一が言った通りに何も身に着けていないことは、輪郭でわかる。
 壽一は明かりを消してベッドに入った。タオルケットを捲りもぐりこむと雅樹を背後から抱きしめる。それから片方の手を前に回し、心臓の辺りにあてた。当然ながら鼓動は伝わって来ないが、温かみは感じる。
「ジュイチ…?」
 壽一の行為に寝呆けの入った声が返ってきた。身体の向きを壽一の方に変えようとするのを抑える。
「いいよ、疲れてるんだろ? そのまま寝てろ」
 壽一の言葉に従ったのか、それとももともと起きてもなかったのか、ほどなく雅樹は寝息を立て始めた。
 鼻先にかかる雅樹の髪はまだ少し湿って、シャンプーの清潔な匂いがする。壽一はその匂いを嗅ぎながら露わな彼の首筋に口づけると、そのまま顔を埋めた。
 重なった背中と胸とで呼吸がシンクロする。午後からずっと壽一を支配していた不機嫌な気持ちは、雅樹の安らかな寝息と、合わさった体温と、同調する呼吸とで、ようやく解消された。
 そうして壽一もまた、眠りの底へと落ちて行った。