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愛を抱いて 14

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27. 夏の終わりに




 ─ 夏は冬に憧れて    冬は夏に帰りたい
   あの頃の事 今では  素敵に見える… ─


 駆け抜けて行く夏の終わりは、私にも哀愁というものを感じさせた。
「もう夏の匂いも、薄らいで来たわね…。」
香織は云った。
「唄う事だけは、諦めないでね。
誰にでも、朝は訪れるわ…。」
残暑の部屋で、私と香織は音楽に耳を傾けていた。
専門学校は大学よりもずっと早く後期の授業が始まるので、私が金沢から東京に帰って来た時、香織と世樹子とフー子は既に中野に戻っていた。
敏感な彼女は、私に「元気がないわね…。合宿で何かあったの…?」と訊いた。
「季節の変わり目だからさ…。」とだけ、私は答えた。


 ─ そっとそこに そのままで   微かに輝くべきもの
   決してもう一度 この手で   触れてはいけないもの… ─


 9月13日、柳沢が戻って来た。
「美穂にさ、フラれちゃったよ…。」
「いつ…?」
「夏合宿で…。」
「へえ。
何だ、落ち込んでるのか…?」
「いや、もう立ち直った…。」
当時私は、大妻女子短期大学に通う、西谷美香という女性とも関係を持っていた。
夏休み前の時点で、4人の女と付き合っていたわけだった。
「まあ、でもまだ、3人残ってるじゃないか…。」
柳沢は云った。
「確かに、ストックが1つ減ったというだけの事なんだが…。
東京に来てから、ずっと順調に増え続けてたストックが、ここへ来て、1つでも欠けてしまったのは、痛いな…。」
「まだ増やすつもりだったのか…?」
「いや、そうじゃないけど…。
一角が崩れると、一気にバラバラと全部崩れて終いそうな気がするんだ。
一度フラれ癖が付くと、なかなか抜けないとも云うし…。
3人残ってるなんて呑気に構えていると、立て続けにフラれちまう様な、悪い予感がするんだ…。」
「下がっちゃ、怖いからな…。
でも、そんな事あるわけないさ。
心配要らない、自信を失くしてるだけさ…。」

 住宅街の一角に在る古いアパートは、また賑やかになった。
「トレーナーを作ろうと思うんだが、どうだろう…?」
柳沢が云った。
「トレーナー…? 
何で…?」
香織が訊いた。
「前から鉄兵には話してたんだけどさ…、俺達は『中野ファミリー』って、サークルだか何だかよく解らない様なものを拵えて、現に今も、ここに集まってるわけだけど…、何か、眼に見える、想い出が欲しいんだ…。」
「それで、トレーナーを作るの…?」
フー子が云った。
「ああ。
『中野ファミリー』のオリジナル・トレーナーを作るんだ。」
「素敵だわ…。
作りましょう。」
世樹子は愉しそうに云った。
「俺も賛成。」
ヒロシが云った。
「でも、どうやって作るのよ…?」
香織が訊いた。
「大学のサークルなんかの、オリジナル・トレーナーやスタジャンを専門に扱ってる処があるんだ…。」
私は云った。
「既に調べて、依頼する処も決めてあるんだが、10枚以上だと、料金が大変割安になる…。
それで、10枚作る事にして、俺達の他にも買い手を見つけておきたいのさ。」
「後、4人ね…。」
フー子が云った。
「男2人、女2人というのが、理想的なんだが…。」
「男の方は、まずドロに買わせるさ。」
「もう1人は川元にしよう。
あいつは金の余ってる奴だから、大丈夫だ。」
「女の子で誰か買ってくれそうな娘、いない…?」
「そうねえ…。」
「ノブちゃんは、買ってくれないかな…?」
「あ、彼女は絶対買ってくれるわ。
ここへ遊びに来たいって、云ってたわよ。」
「誰だい、それ…?」
「私のクラスの娘よ。
一度ここに、泊まった事があるの。」
「ああ…、鉄兵が不祥事をやらかしたって時…?」
「さて、後1人だ。」
「どんな娘だい…?」
「とっても可愛い娘よ。」
「本当…? 
早く逢いたいな。」
「全く、俺が帰った後に、そんな可愛い娘が来るし、焼肉パーティーをやったと云うし…。」
「あなたが、さっさと先に帰っちゃうから、いけないのよ。」
「それより、女の子もう1人考えてくれよ。」
「誰がいいかしらね…?」
「できれば、可愛い娘が、いいな…。」
「そうだ。
ノブちゃんは可愛いらしいが、せめてもう1人ぐらい、可愛い娘がいても…。」
「あら、私達じゃ不満ってわけ? 
それなら、自分達で捜せば…。」
「冗談だよ。
誰でもいいから、トレーナーを買ってくれる娘を捜してくれ。」
「私達だって、もっとカッコ良い男の子にいて欲しいわよねぇ…。」
「だから、冗談だって。
お願いします。
見つけて下さい…。」
「まあ、いいわ。
友達に訊いてみて、1人捜しとくわ…。」

 9月17日から、大学の後期の授業が始まった。
西沢と野口は、夏休みに新島へ行き、十数人の女とセックスをして来たと云った。
「俺は生まれて初めて、もうセックスはしたくない、女を視るのも厭だ、という気分を味わったよ…。」
その日は後期の初日という事で、夕刻から、男ばかりで飲みに出た。
「酎ハイ、5つ。」
「俺は水割がいいな…。」
「後からにしろよ。
取り合えず、みんな酎ハイで乾杯しようぜ。」
「お通し」をアッと言う間に食べてしまって、つまみに不自由し始めた頃、やっと「つくね」と「焼き鳥」と「肉じゃが」が出て来た。
「ここの『煮込み』は、美味いのか…?」
「さあ…? 
食った事ない…。」
我々は、「煮込み」の美味しい居酒屋は、他の料理も全て美味しいという、奇妙な方程式を造っていた。
ただ「煮込み」程、店によって味の格差の激しいものはない事は、確かであった。
「他に御注文は…?」
「若鶏の唐揚げ…。」
「イカ丸と、あさりバター…。」
「酒蒸しの方がうめえよ。
酒蒸し…。」
「月見とカニサラ…。」
「ホッケ…。」
「おめえ、頼むから、ホッケは止めてくれよ。」
「いいじゃねえか。
安くて量があって…。」
「つくね追加…。」
「また食うのかよ…?」
「ほっとけ、好きなんだよ。
つくねが…。」

 「…だからさ、クリトリス神話は絶対だよ。」
我々は、「合コン愛好会」を結成以来、常により高度なセックスを求めて、真実の飽くなき追求を続けていた。
「女がオルガスムスを知って、欲情する様になれば、楽なんだよな。」
「そりゃ、そうさ。
でも問題は、そうなるまでの間、いかに充実したセックスを行えるかって事だ。」
「経験の浅い女の特徴は、濡れやすく、渇きやすいって事だ。
いきなり濡れて、前戯が終わると、緊張で渇いちゃうんだ。」
「ゴムを素早く着ける事が大事なんだよな。
着けるのに手間取って、その間に女の方は渇いちゃってて、もう一度クリニングスしなきゃなんない、なんてのは最低だよ。」
「そんな、前戯の意味が全然なくなる場合は、男に問題があるさ。
前戯と本番は、連続してなきゃ駄目だ。
片手でゴムを着ける事のできない男に、セックスをする資格はない。」
作品名:愛を抱いて 14 作家名:ゆうとの