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帰郷

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 車は東へ進む。年末の帰省ラッシュは今のところ問題ない。神戸を経って三時間、単調な高速道路の風景と周囲の暗さで、朱音は少し眠くなってきたが、大きなあくびを一つして眠気を払う。
「しかし、いきなり戻るって言うの?年明けまでいればええやんか」
朱音は眠気紛らしにちょっと本音を漏らす。
「――でも何かこれが篤兄って感じもするけど」
出発前に西守医院で悠里とママ先生が作った夜食を摘まみながら陽人が合いの手を入れる。
「ごめんね、みんな。感謝はしてるけど、こうすることが僕の最良の答えなんだ。――、ところで悠里ちゃんは?」
「寝たよ」
 今年もあと数日。朱音の運転で篤信を横に乗せ、後ろに陽人と悠里を乗せている。時間は日付が変わった頃、まだ小学生の悠里は陽人にもたれかかり寝息をたてている。

 東京の大学に通う西守篤信は、学業、人間関係が思うようにいかず、そして少しのホームシックで故郷の神戸に帰ってきたのはおよそ半月前のこと。大学の留年が決定的となるどころか卒業まで勉強を続ける気力さえも失い、今まで挫折知らずの神戸の神童にとっては失意の帰郷だった。
 幼馴染みの朱音をはじめ、彼女の弟妹たちと接する事で、見失いかけた自分から吹っ切れる事が出来、東京に戻ることを決めた。一年で間に合うかは分からないが、まずは遅れたって構わない。今できる事をしよう、自分の夢を実現させよう。五年前に上京したときよりも確かに強い気持ちがある。

 朱音は篤信の固い意思に反対はしなかった。正直もう少しいて欲しかった。しかし、篤信が本来の自分を取り戻そうと奮起しているのを止めることなんてできない。陽人がいう「篤兄らしい」と言えばその通りよね、と言いながら少し睡魔が朱音を誘うが、まずまず軽快に運転をしている。夜が長いので、朱音も眼鏡を掛けている。きょうだい三人とも近眼である。
「音々ちゃん、眠かったら言ってよ。運転変わるから」
篤信は朱音を気遣うも、朱音は視線を変えることなくクスッと笑う。
「――いいよ、気を遣わなくても。私、運転するの好きだから」
「お姉は運転上手だから」陽人は精一杯のフォローをするも、
「僕が運転苦手なのは定説になっちゃったかな」と篤信は苦笑いをした。
「篤信君が運転したら悠里が起きてしまうわ」
朱音はちょっと意地悪なことを言ってみる。起きている三人は声を出して笑うと、眠っている悠里も釣られて顔を少しほころばせたが、起きること無く眠りに落ちていった。
「まあ、とにかく。こうやって東京まで送ってくれるってのが僕は嬉しくてさ、ホントに感謝してるよ」
 朱音は、少しだけでもいいから一緒にいたい。なかなか素直に言い出せない、一人で送るにも照れくさい。というか間が持たない、多分。そこで弟妹をダシにして、陽人と悠里も連れてきたのだが、二人も旅行気分で結構喜んでいる様子だ。まだ小学生の悠里は出発前に張り切りすぎてもう電池切れだ。
「陽人君もありがとうね、東京まで来てくれるなんて」
篤信は後部座席の陽人に目を遣った。少し眠そうな顔をしているが意識はまだしっかりしている。
「実はね、ついでの用事ができたから助かったんだ。自分的には」
「助かった?」
前の二人が声を揃えた。
「うん、ちょっと前から東京にいる先輩と連絡取ってたんやけど、ちょうどこの話があったから助かったんだ」
「あんた、そういうところしっかりしてるわね」
「この話がなかったら夜行バスでしょ?だったら行くかどうかも分からんかったし」
今度は陽人の方から二人に御礼を言った。
「篤兄の下宿もどんなんか見てみたいな」
「陽人君は独り暮らししてみたい?」
「いずれはね。いつまでも妹と相部屋ってわけにもいかないでしょ。悠里だって中学生になるんやしさ」
 陽人も来年は高校三年生になる、具体的なものは見えていないが独立して家を出ようと考えている。篤信と同じ進学校に通う陽人であるが、学力とは別に、家庭での現状を考えると進学することに障害がないとは言えない現状にある。それでも現役の大学生はどんなものかという興味は多分にあり、近い将来の判断材料にしたいのもあった。


作品名:帰郷 作家名:八馬八朔