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帰郷

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 それから五年と半年ちょっと、二人は再会している。
「あん時カッコつけ過ぎたね」
篤信は静かに苦笑い。
「篤兄ちゃんにもできないことはあるよ。それがわかっただけでも私は嬉しいよ」
「『嬉しい』のかい?」不思議そうに朱音の方を向く。
「うん、何でもできる人やったら私は必要ないってことよね……。だから、頼れる事があったら力になりたいの」朱音の目が篤信の目を制する「むしろ足手まといかな?」
小さな溜め息がこぼれる。
「そんなことないない。音々ちゃん、ありがとうね」
篤信は呟いて、左手を朱音の右手に重ねた。手袋越しに朱音の手の温もりが伝わってきた。朱音は何も言わなかった――。

***

 医者になるという大志を抱いて東京に旅立った西守篤信は、大学の授業のレベルの高さ、人間関係の難しさ、そして少しのホームシックが原因で帰郷してきた。今まで小さな挫折すら経験の無かった篤信には大きな傷を負っての帰郷である。
 神戸に戻り家族や意中の人と出会い、自分以上に辛い経験をしているきょうだいと自分を比較して、自分が如何に打たれ弱い人間であることを知り、自分を責めた。
 志が完全に途絶えた訳ではない、留年することを怖れている訳でもない。

    つまるところ吹っ切れたいのだ――。

 しかし篤信にはその方法がわからないのだ。今までつまづいたことがないから、自分のプライドが邪魔していることには気づいていない。
 結局この日篤信は、朱音に本当の事を言えずにいた――。


  帰郷 第二章に続く

作品名:帰郷 作家名:八馬八朔