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愛を抱いて 11

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初めてそれに繋った時、彼はまだ金縛りというものを知らず、ただ愕いたらしい…。
柴山が2度目に逢った時の話が面白いんだ…。」

── 柴山はその夜、いつもの様に布団の中で上を向いて寝ていた。
浅い眠りに就いてしばらくした時、柴山は突然眼を覚ました。
「まただ…。」
前の時と同じ様に、身体が全く動かなかった。
そして布団が、異常に重かった。
まるで膝の辺りに、何かが乗っている感じだった。
「重い…。
脚の上に何か乗ってる…。」
柴山は布団の上を視た。
「…!」
布団の上には、老婆が座ってこちらを視ていた。
柴山は至上の恐怖を味わった。
しかし身体が動かないので、ただ眼を固く閉じて耐えていた。 ──

 「怪談より、よっ程迫力があるわね…。」
「金縛りに逢ってる間は、必ず幽霊を視る事ができるらしいな…。
でも金縛りになれる者ってのは決まってるみたいで、同じ者ばかりが何度もなるんだ…。
俺は柴山とか、金縛りに逢った経験をしてる奴等が羨ましい…。」
「鉄兵君は逢った事ないの…?」
「ああ…。
残念で仕方ないが、ない…。」
「いいじゃない、ない方が…。」
「どうして…? 
幽霊が視れるかも知れないんだぜ…?」
「金縛りってのは、いったい何なんだろうな…?」
「心霊現象じゃないの…?」
「実は俺、金縛りについては、興味があって色々と研究したんだが、体験してる奴等が皆臆病で、中には絶対眼を開けない奴とかいて、情報が不足気味なんだ…。
大体解ってるのは、まず眠る時にしかならない事だな…。」
「それは、当たり前なんじゃないの…?」
「大事な特徴さ…。
脳が完全に覚醒してる時間には金縛りにならないって事は…。
布団に入って眠りかけた時や、一度眠ってしまって再び眼が覚めた時に繋るんだ…。
そして、上を向いて眠った時に繋りやすい…。
後、疲れた日の夜に繋りやすいらしい…。
見える物については、大体人間で、白いボーッとした物ってのも多いみたいだ…。
柴山は、部屋の中を人形が走って行って壁に消えたり、部屋にある椅子が、くるっと廻ったりした事があると云ってた…。
繋る年齢は、13歳から18歳ぐらいまでで、20歳を過ぎるとあまり繋らないらしい…。」
「それで、研究の結論は出たの…?」
「まあね…。
勿論、これは俺の推測なんだが、一度眠りに就いてから、突然、脳のある部分だけが覚醒するのではないかと思う。
身体はまだ眠ってるのに、脳だけが眼を覚ますのさ。
だから、手足が動かないんだ。
そしてその時、幻覚を視るのさ…。」
「幽霊は幻覚だって云うの…?」
「ああ…。
恐らく間違いないだろう…。
金縛りは夢ではない…。
幻覚なのさ。」

 8月9日の夜、私は香織と世樹子の二人と一緒に、サン・プラのロビーにいた。
「鉄兵君、明日帰るの?」
「うん。」
「じゃあ、香織ちゃん御見送りに行くんでしょう? 
二人でしっかり別れを惜しんでね。」
「私、行かないわよ。」
「あら。
それは冷たいんじゃない…?」
「明日はエキストラのバイトがあるの。
世樹子も知ってるでしょ…?」
「あ、そっか…。
でも鉄兵君、可哀相ね…。
一人で帰るの…?」
「うん。
誰にも見送られず、一人寂しく広島へ帰るのさ…。」
「…可哀相。
香織ちゃん、バイトなんて休んじゃいなさいよ。」
「もう行くって云っちゃったから、休めないわよ。
そんなに可哀相って思うなら、世樹子が見送りに行ってあげれば…?」
「そうね…。
私、行ってあげても、いいわよ。」
「おお。
ぜひ、そうしてもらいたいな…。」
「鉄兵君が私なんかで良ければ、本当に行ってもいいわよ。」
「でも、一人で帰るって言うのは、嘘よ。」
「あら、そうなの? 
鉄兵君。」
「…そう言えば、川元が一緒に帰ろうって云ってたかな…?」
「川元君に指定席券まで頼んであるのよ。」
「なぁんだ…。
じゃあ、私が行く必要もないわね…。」

 8月10日、私は川元と博多行きの新幹線に乗った。
新横浜駅を通過した頃、川元は既に眠り始めた。
私はウォークマンを聴きながら、窓の景色を眺めていた。
(東京の水は結構俺に合ってるみたいだな…。
始まりの4ヶ月は、まずまずの出来映えって処か…。)
私は前期の東京生活に満足を感じていた。
香織と、美穂と、みゆきの事を考えていた。
(…お前は創造家ではなかったのか?)
突然、意識の奥から、微かな問いかけが聴こえた。
(お前は価値あるものを創造できたのか…? 
お前が満足しているのは、俗な女性関係だけではないのか? 
4ヶ月の間、お前は何をした? 
自己完成への努力をしていたと、云えるのか? 
お前の本当の望みは…。)
(俺に期待するなよ…。)
私は意識の奥の声を遮った。
(俺に期待なんかしないでくれよ。
もう少し遊ばせてくれよ。
その内、ゆっくり始めるさ…。
でも、多分…、価値あるものなど、創れはしない…。)


                          〈二二、金縛りについて〉


作品名:愛を抱いて 11 作家名:ゆうとの