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愛を抱いて 10

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そのために、まず作戦をたて、次に接触を謀り、そして全存在を賭けて事に取り組む…。
何より集中力が大事だと思うな。
それと、実践を積む事も…。」
「それは、ナンパ論でしょ…?」
「ワン・ナイト・ラブを馬鹿にしてはいけない。
一夜で燃え尽きるなんて、素敵な事だ。
少しずつ逢って、恋愛を長持ちさせようとするよりは、よっ程ましさ。
それに、初めて逢ったその夜にお互いが本当に感じ合うって事は、結構難しいんだぜ。
テクニックを持ってないと駄目なんだ。
気心の知れた女と何度セックスしたって、あまり上達は望めない…。」
世樹子は、「訊いた私が馬鹿でした。」と言う様な顔をして、横を向いていた。
「何の話だっけ…?」
私は云った。
「もう、いいわよ…。」
彼女はストローを指に挟んだ。

 深夜に近い時刻の街を、私と世樹子は三栄荘に向かってゆっくり歩いていた。
「鉄兵君の理想の女性は、やっぱり香織ちゃん?」
「俺の場合、女性である事が、既に理想なんだ…。」
「鉄兵君と香織ちゃんて、私の理想のカップルなのよ。」
「…でも俺は両刀使いでもなければ、人間以外の生物とセックスをしてるわけでもない…。」
「本当に二人は似合ってるって言うか、見ていて素敵だなって思うの。」
彼女は既に、私とスムーズに対話する要領を把握していた。
「二人は私の理想なのよ…。
こんな事云うと、恋に恋してるみたいでしょ? 
確かに去年までは、そうだったわ。
自分でも、ただ素敵な恋愛に憧れてるだけだったと思うもの。
今でも香織ちゃんとかには、そうだって云われるけど、…でも、今は違うの…。
本当に違うのよ…。」

 ヒロシと香織は既に三栄荘へ帰っていた。
「どこへ行ってたの? 
二人でいなくなったりして…。」
香織が訊いた。
「違うさ。
俺と世樹子は、別々にはぐれて、それから一緒になったんだ。」
「あら、計画的な逃亡だったんじゃないの?」
「違うって…。
俺達の方だって、捜してたんだぜ。」
私は香織よりも、ヒロシの顔色を気にした。
「それにしても、随分遅かったじゃない?」
「ああ…、花火をずっと最後まで観てたんだ。
花火から恋愛論を帰納法的に導き出せないかって考えてさ…。」
世樹子はただ笑っていた。

 「鉄兵ちゃん、とうとうヒモになったんだって?」
ヒロシが云った。
私は口へ運びかけたグラスを途中で止めた。
香織と世樹子は笑い出した。
「ああ…、まあな…。」
「いいなあ…。
俺、憧れちゃうなあ…。」
「ヒロシもやれば…?」
香織が云った。
「やりたいよぉ。
相手がいれば…。」
「ヒロシ君も早く彼女を作りなさいよ。」
世樹子が云った。
「あなたも、早いとこ彼を作るべきよ。」
香織が世樹子に云った。
「ヒロシと世樹子が付き合えば、済む事じゃない?」
私は云った。
「いい考えだわね…。」
「他人事だと思って、簡単に処理するみたいに云わないでよ。」
ヒロシは何も云わず、笑っていた。
「まるで、ラブコメね…。」
香織が云った。


                           〈二〇、世樹子の夢〉


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作品名:愛を抱いて 10 作家名:ゆうとの