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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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sweet present

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 今日は、5限まで試験だと言っていたはず。5限の教室はこの建物ではないはず。なのにどうして。
 呆然としている間に、向こうはどんどん近づいてくる。そもそも、姿が目に入った時にはもう、彼女はこちらに向かってきていた。たぶん教室から出てくるのを待っていて、自分が扉を開けると同時に見つけていたのだろう。
 だけどなぜ、と疑問ばかりが浮かぶのは、我ながら相当に焦っていたのかもしれない。その推測も後から思い返してのことで、この時は思いつく余裕もなかったのだが。
 目の前に到着するが早いか(といっても常に謙虚な彼女だから、普段と同じく適度な距離を空けていたが)、息切れを整えようともせずに「ごめんね、あの」と話し始める。彼女らしくない、と思った瞬間ようやく我に返った。
 「え、ちょっと槇原、どうし」
 「時間ないかもと思ったんだけど、前の試験隣の建物だったし、でもなかなか出てこないからひょっとしてすれ違ったかもって、あと1分ダメならもう行かなきゃって思ってたとこで」
 事情を聞こうとした自分の発言をさえぎり、彼女は早口でまくしたてる。それもおよそ彼女らしくない、気の急いたふるまいだった。もっとも、現状を考えればどんな理由でここにいようと急いでいて当然なのだが。
 「でもやっぱり今日のうちがいいって思って……なんとか会えてよかった、これ」
 姿を見つけた時から、彼女が右手に下げたやけに大きな紙袋は目についていた。ついでに重そうだなとも思っていた。だから差し出されると同時に反射的に受け取ってしまったが、よかったのだろうか。
 その答えは、自分が受け取ったと確認した後の、彼女のほっとしたような表情に表れていた。直感的にそう思った。
 「ごめんねいきなり。でもずっと気になってて。少しでも早く渡しておきたかったから。じゃあ」
 言うなり、頬の赤さが引かないまま、彼女は踵を返して走り出す。5限開始まであと3分ぐらいだから、試験の教室がどこにせよ急ぐだろう。そう思うと呼び止める声もかけようがなく、見送るしかなかった。
 なんとなく途方に暮れた心地で視線を落とし、直後に目を見張った。紙袋の中には大小いくつかの包みがあり、一番上に乗せられていたのは、赤い包装紙の小さな箱状の包み。それの右上に貼られた金色のシール。
 今日何度も見せられたはずの文字が、まったく別の文字に見える。思わず箱を取り出してみると、下にはナイロン素材の袋と、長方形状の大きな包みがひとつずつ。そこでようやく周りの目を思い出し、建物内の手洗いへと走った。運良く空いていた個室のひとつに飛び込む。
 慎重にそれぞれの包みを取り出し、なんとか中身が見えるまで慎重に開けてみる。そのたびにまた、驚きで目を見張らされることになった。
 袋の中身はスポーツタオル、長方形状はまたもや箱で、真新しいシューズが入っていたーーフットサル用の。さらには、二つともにカードが同封されており、それぞれ「誕生日おめでとう」「メリークリスマス!」と表面に印字されている。
 既製品らしいカードの裏面には何も書かれていなかったが、そんなことは気にならなかった。ふつふつとこみ上げてくる嬉しさが、次第に表情を崩れさせる。叫びたい衝動を抑えるのが大変だった。
 ーー彼女が、プレゼントを用意してくれていた。チョコだけでなくそれ以外も。他の2つを、どちらも当日に渡せなかった理由は予想がつく。誕生日の時は予想外の展開になってしまったし(自分のせいなのだが)、クリスマス前後は彼女が家の事情で帰省していてそもそも会えなかった。そのまま、渡すタイミングを逃したままになっていたのだろう。
 ついさっきまで見ていた、彼女の赤い頬を思い返すと、急いでいたことだけが理由とは今では思えなくて、ますます顔がにやついてしまう。自分に対する気持ちがどんなものであろうと、3回分のプレゼントを用意してくれていた彼女の想いが、ただひたすら嬉しい。
 甘い感情が胸から一気にあふれて全身を満たし、今や完全に夢見心地だった。この状態が治まらないことにはサークルの練習に行けない、そもそも普通に外を歩けそうにない。長い時間こうしてはいられないとわかっていながらも、当分は夢から醒められそうになかった。
作品名:sweet present 作家名:まつやちかこ