シンデレラ
「このまえ、ぼくは両親に初めてわがままを言いました。すごく緊張しました。たくさんの家臣たちの前で、『ぼく、好きな人ができたけれ、さ、探してほしいけれ、とっても大事な人、強くて美しくて、ぼくにはもったいないけど、でも、もう一度会いたい、会いたいけれ、探してけれ』あんまりけれけれ言うもんだから家臣たちに笑われました。でもぼく、そいつらを睨んでやりました。『不器用なダンスも堂々と踊れ』って、大切な人に教わったから。『私の言ったこと忘れないで』って、言われたから」
「…!!」
「でもここには彼女はいません。人の目も見れない、腰抜け女がいるだけです」
帰ります、と言って王子は立ち去ろうとします。そのとき、シンデレラが口を開きました。
「あ、あんたには、わかりません」
シンデレラの声はふるえていました。
「あんたには、わかりません。ずっとよその家で、母のぬくもりのない家で育つこと」
「…」
「シンデレラって、どういう意味か知ってますか?『灰かぶり』って意味です。私の家、かまどがあるんです。ごっつい、なんかの処理施設みたいな、おっきなかまど。私の二人目のお母さんが私のこと、いじめるためだけに作ったの。だから毎日家の中ジャングルみたいに暑くて、バッカみたい。使い終わった後、かまどの中は灰がピラミッドみたいになってて。私はそれを延々と、掃除していくの。途中で灰が舞い上がって、せきが止まらなくなって、息が苦しくなってひざまずいて。そのうち涙がこぼれてきて。せきが苦しいのと、みじめな気持ちとで、涙止まらなくなって。でもこんな涙知られてたまるかって、涙止めるまでかまどからは出ないんです。『止まれ止まれ』って思ってもなかなか、涙止まらなくて、頭には灰が積もってて。意地はるほどに、神さまにコケにされるの」
シンデレラは、いつも耐えていました。ずぶといと言われ、彼女もそれを誇りにすら思って、今日まできました。しかし、少女がこんな扱いを受けて平気なわけはなかったのです。
「そんな継母でも、お父さんにとっては大事な人なんです。お父さんいなくなったら、私、本当にひとりぼっちになるんです。そんな気持ち、わからないでしょう。みじめすぎて、汚らしすぎて、聞くのもいやになるでしょう」
「はい、わかりません。でも同情もしません」
王子がシンデレラの前に立ちました。王子もふるえた声で言いました。
「あなたが言ってくれましたから。『笑ってくる人は笑い返してやればいい』って。『こんな私はお母さんに似ているんだ』って、うれしそうに言いました。だから同情しません。あのときのあなたが好きですから。大好きですから」
王子はシンデレラの頭の灰を払い、ずきんをおろしました。
「あなたがこんな灰をかぶってる姿を見て、腹が立ちました。どうか、幸せにさせてください」
王子は顔をあげたシンデレラの、今度こそ目を見て、言いました。
「ぼくと結婚してください」
シンデレラは綺麗な涙を一筋流し、こくりとうなずきました。
それから王子は、シンデレラ一家を城に住まわせました。お金持ちの生活ができて、継母もお姉さんたちも大喜びです。しかし、これには王子が二つの条件を出していました。一つは、継母とシンデレラのお父さんがずっと仲良く暮らすこと。二つ目は、継母とお姉さんたちでお城のかまどを毎日掃除することです。
これには継母とお姉さんたちもぶーぶー言いましたが、城で暮らせるとあってしぶしぶ条件を受け入れました。継母とお姉さんたちも神経がずぶといので、かまどの掃除もすぐに慣れました。お父さんも継母と娘たちに囲まれて幸せそうです。
それからシンデレラは王子さまと結婚して、二人にはこどもができました。
「見ろ、シンデレラ。もう少しで立って歩けそうだ」
「がんばれー!あと少し!」
「ふふ、力が入りすぎだよ、シンデレラ」
「それ、しゃんと立て!しゃんと!」
それからシンデレラは大切な家族に囲まれて、幸せに暮らしたとさ。
おしまい。